2017年8月に「SL大樹」の運行を開始し、SL列車を運行する数少ない鉄道会社の仲間入りをした東武鉄道。JR東日本が「SL銀河」の運行を取りやめたことからもわかるように、SLを所有し運行することは時代の流れに逆らうような決断だった。
しかし運行開始から6年、東武鉄道の「SL戦略」は停滞するどころか順調に進み、今や東武鉄道は「蒸気機関車王国」になっているのである。
SL大樹が運行を開始した時、東武鉄道が使っていた蒸気機関車は「C11 207号機」だけ。これはJR北海道が所有しているもので、東武の所有ではなく借り物だった。その後、20年には栃木県の真岡鐵道から「C11 325号機」を譲り受け、SL大樹の牽引機として運用を開始。一方で18年には北海道の個人が静態保存していた「C11 123号機」を譲り受けて修復し、22年から牽引している。
今、東武鉄道が動態保存している蒸気機関車は3両。これはJR東日本と大井川鐵道の4両に続く多さ。まさに「蒸気機関車王国」にふさわしい布陣なのだ。
豊富な蒸気機関車を武器に、東武鉄道は下今市駅と鬼怒川温泉駅の間を走るSL大樹に加え、20年からは東武日光駅と下今市駅の間を走る「SL大樹ふたら」の運行を開始。21年には蒸気機関車を2両つなげて運転する「重連」でSL大樹を運行した。
SL列車に関して「攻めの戦略」を採っている東武鉄道が目指しているのは何か。鉄道ライターはこう分析する。
「東武が目指しているのは、SL列車を会津地方まで乗り入れることです。東武鬼怒川線から野岩鉄道会津鬼怒川線、会津鉄道会津線を経て、会津地方まで走らせたいんです。昨年、ディーゼル機関車が牽引する『DL大樹』を下今市駅から野岩鉄道、会津鉄道を通って会津田島駅まで運行したのは、その準備だと言われています。蒸気機関車を走らせるには沿線住民の理解が必要なので、DL大樹を走らせて地元に経済効果があることを証明し、理解を得ようとしていると考えられます」
SL列車の会津乗り入れが実現すれば、次は重連運転、さらに3重連運転と夢は膨らむ。東武鉄道が今後どんな手を打ってくるのか、注目したい。
(海野久泰)