天皇杯全日本サッカー選手権大会決勝(12月9日=国立)は、川崎フロンターレ対柏レイソルのJ1クラブ同士の対戦となり、0-0のまま延長120分でも決着がつかず、試合はPK戦までもつれ込み、川崎が3年ぶり2度目の優勝を飾った。
戦前の予想では、川崎が主導権を握り柏が守ってカウンターを仕掛ける、そう思われていた。しかし試合は予想外の展開になった。開始早々から柏は最終ラインを高く保ち、細谷真大、山田康太のツートップが前線から激しくプレスをかけ、川崎に主導権を与えなかった。中盤での攻防で優位に立った柏は、マテウス・サヴィオを中心に攻撃を組み立て主導権を握った。
後半に入ると、川崎がミドルパスやロングパスを多用し、柏の最終ラインを下げようとし敵陣でのプレーを増やしていく。それでも柏はサヴィオからのカウンターパスに細貝が抜け出しビックチャンスを作るなど一進一退の攻防となった。
川崎は強豪らしく、メンバーを代えポジションを代え、システムも4-3-3から4-2-3-1に変え、何とか自分たちのペースに持ち込もうとする。それでも柏は全く怯むことなく真っ向勝負を挑んでいた。最後のPK戦は運も左右するが、タイトルを獲らなければいけないという気持ちの差で川崎が上回っていたということか。
ただ、0-0の試合でもこれだけ見応えのある試合にしたのは、柏の頑張りだった。
今季の柏は最終戦でJ1残留を決めるなど苦しいシーズンだった。16位に低迷していたところで13節から井原ヘッドコーチが監督就任するも、8試合勝ちなし。しかも16節の札幌戦(4-5)、17節の横浜M戦(3-4)と2戦続けて大量失点。アディショナルタイムで失点するなど屈辱的な敗戦を経験した。
7月中旬から約3週間のJリーグ中断期間、井原監督は守備の立て直しに時間をかけた。さらに浦和レッズからDF犬飼智也を補強し、守備のテコ入れにも着手。
すると8月2日の天皇杯4回戦、リーグ戦では大量失点で敗れた札幌を1-0で完封。その後は準々決勝の名古屋戦(2-0)、準決勝の熊本戦(4-0)と連続完封勝ち。リーグ戦もなかなか勝ち切れず引き分けが多かったとはいえ、残り試合を2敗で乗り切り、最終戦でJ1残留を決めた。
天皇杯決勝の柏の選手を見ていると「降格」という恐怖から抜け出したことで、最後まで自信を持って自分たちのサッカーをやり通した感じがした。
試合後の会見で井原監督はシーズンを振り返り、
「途中から監督を引き受ける難しさを感じながらシーズンを過ごしてきた」
と語っていたが、来季も監督続投ならキャンプからチーム作りができる。今季最後の公式戦ともいえる天皇杯決勝で、可能性を感じるサッカーを見せた柏。井原監督がどう成長させるか楽しみなチームだ。
(渡辺達也)
1957年生まれ。カテゴリーを問わず幅広く取材を行い、過去6回のワールドカップを取材。そのほか、ワールドカップアジア予選、アジアカップなど数多くの大会を取材してきた。