長らく「ヒロインの友達役」に甘んじてきた名バイプレイヤー、木南晴香と生見愛瑠の出世作となるはずだったのだが…。
昨年10月期に日曜22時枠ながら平均個人視聴率3.1%と大健闘したドラマ「セクシー田中さん」(日本テレビ系)の原作者・芦原妃名子さんが、栃木市内で死亡していたことがわかった。悲報に便乗して日本テレビや脚本家を誹謗中傷している愉快犯はともかく、ドラマをリアルタイムで見ていた視聴者なら、ドラマが佳境を迎えた9話、10話の違和感に気が付いていたことだろう。
その理由について12月末、同ドラマの8話までを担当した脚本家が明かしたところによれば、
「最後は脚本も書きたいという原作者たっての要望があり、過去に経験したことのない事態で困惑しましたが、残念ながら急きょ協力という形で携わることとなりました」
この告白をきっかけに、原作者の芦原さんからも、自らが脚本を書くまでの経緯が公表された。
「必ず漫画に忠実に」「(ドラマがオリジナルの結末を迎える終盤は特に)原作者があらすじからセリフまで」を用意した上で、「場合によっては、原作者が脚本を執筆する可能性もある」との条件でドラマ化を了承したと説明。ところがドラマ制作が始まると、
「漫画で敢えてセオリーを外して描いた展開を、よくある(ドラマの)王道の展開に変えられてしまう」
「『性被害未遂・アフターピル・男性の生きづらさ・小西と進吾の長い対話』など、私が漫画『セクシー田中さん』という作品の核として大切に描いたシーンは、大幅にカットや削除され、まともに描かれておらず、その理由を伺っても、納得のいくお返事はいただけない」
そんな原作者としての苦悩を募らせていたというのだ。原作者と脚本家それぞれの立場で感じた戸惑いをSNSに記していただけなのに、次第に原作ファンを名乗るネットユーザーの誹謗中傷がヒートアップ。
芦原さんは1月28日までにこれらの投稿を削除して、
「攻撃したかったわけじゃなくて。ごめんなさい」
と書き込んだのちに連絡が取れなくなり、同日夜に関係者から行方不明届が出されていた。
漫画のドラマ化には原作者の「オリジナリティー」と同時に、出演者の肖像権の問題も生じる。原作者と制作サイド、プロダクション、スポンサー…多くの人が関わるドラマの制作現場で理想と現実の折り合いをつけることこそ、テレビ局の仕事だと思うのだが。
攻撃的なファンの声に押され、木南がヒロインを好演、妖艶なベリーダンスを披露したドラマはこのまま、放送禁止になってしまうのか。SNS上にあまりに非常識な誹謗中傷が溢れる中、「漫画原作のドラマは誰のもの?」という疑問と、未完の「セクシー田中さん」だけが残された。
(那須優子)