◆今週のキーマン:小渕優子〈おぶち・ゆうこ〉(経済産業相)●73年生まれ。TBS「はなまるマーケット」ADなどを経て、父・恵三氏の秘書に。00年、父の急逝で衆院選に出馬、初当選。麻生内閣では少子化担当相だった。
「土井たか子の胆力」なければアダ花も
安倍晋三総理が、経済行政に精通しているとは言い難い小渕優子氏をあえて経産相のポストにつけた狙いは3つある。【1】閣内に封じ込めることで、来年9月の自らの総裁選再選への対抗馬たる芽を摘む。【2】その人気の高さを借り、「選挙の顔」として、やはり総裁選への弾みとしたい来年4月の統一地方選を勝利に導きたい。【3】そのうえで、全国の原発再稼働への先鞭となる鹿児島県・川内原発のそれを、やはり小渕氏の人気を借りて、年明け早々にも実現にもっていきたい。
とりわけ川内原発については、すでに原子力規制委員会がOKを出しているものの、地元自治体の了承を取り付けることが不可欠となっている。しかし、この周辺には桜島など火山群があり、地元住民の反対論も根強く、コトは容易に進みそうにない。
小渕氏の説得が失敗すれば、以後、全国の原発再稼働は宙に浮き、国のエネルギー政策も大きな見直しに直面せざるをえなくなる。このことは安倍政権を大きく揺さぶることになるいっぽう、「日本初の女性総理最有力候補」の呼び声もある小渕氏の、最初の「関門」となる。その「素顔」はどうなのか。小渕氏の出身派閥である額賀派の議員は、次のように言った。
「単なる“政界のヒロイン”ではない。原発絡みの国会答弁では官僚作成の『想定問答案』からの棒読みで安全運転に徹しているが、普段は早口でズバッと核心を突いた発言をする。芯は亡父の小渕恵三元総理よりはるかに強い。恵三氏の盟友だった青木幹雄元参院議員会長ら長老、ベテラン議員がバックにいて知恵を付けていることもあり、今回の安倍総理の狙いもすっかりお見通し。元々、リベラル派で保守色の強い総理との距離は承知のうえ、『神経戦』覚悟の入閣ということだ。衣の下は相当にしたたかで、政治勘、感性もあるだけに、大化けの可能性はある。ただし、まだまだキャリア不足は本人も自覚しており、焦ってはいけない。『初の女性総理』への勝負は、次の次の総裁選に照準を合わせているようだ」
彼女に要求されるのは、先に死去した、初の女性党首、初の女性衆院議長のイスに座った土井たか子氏の意地と度胸、胆力。土井氏には「ダメなものはダメ」で押し切る胆力があったが、単なるイデオロギーの人ではなく、まごうことなき戦後政治史の中で傑出した女性政治家だった。
理念を喪失、浮遊する存在と化した野党はともかく、自民党も内実は旧態依然、もはや流れの激しい国際情勢の変化についていけない政党へと堕している。小渕氏には旧来の発想、体制を打ち破る突破力も求められる。土井氏の衣鉢を継ぐくらいの覚悟がなければ、初の女性総理はアダ花で終わるだろう。
来年1月からの通常国会は、今国会とは一変、野党は厳しい「変化球」の質問を浴びせてくる。それに安全運転答弁で対応できるかどうか。政界はジェラシーと計算が渦巻く坩堝である。これに翻弄され、結局は埋没してしまった人気者は、枚挙にいとまがない。志半ばで倒れた父の無念を晴らせるかどうか、早くも発覚した「政治とカネ」疑惑ではまだ見えてこない。
◆政治評論家・小林吉弥