◆今週のキーマン:菅義偉〈すが・よしひで〉(官房長官)●48年生まれ、法政大学法学部卒。96年に初当選し、自民党副幹事長、国交相政務官、経産相政務官、総務大臣などを歴任。酒は飲まない甘党で、渓流釣りが趣味。
通常国会冒頭解散を進言か「政権の屋台骨」
官房長官として影のように振舞っての暗躍また暗躍、安倍政権の立て役者、屋台骨として軌道に乗せてきた菅義偉氏は「路地裏の怪人」である。筆者は小学生の頃、東映の同名映画で、なぜか目深にかぶったソフト帽に蝶ネクタイ、ダブルの背広で二丁拳銃を構え、いずこからともなく現れてはバッタバッタと悪漢をやっつける名優・片岡千恵蔵のガンさばきにホレボレした思い出がある。物語のヒーローは時にどこからともなく現れ、場を締めるのである。この役どころで政権内で信頼と喝采を浴びていたのが菅氏だったが、今や状況が一変した。
これまでの「一強」盤石政権も相次ぐ閣僚スキャンダルによる辞任で大揺れ、あと1人でも同様の辞任閣僚が出れば政権は完全に赤信号、正念場に立たされるからだ。ましてや、年内の安倍政権にはハードルが林立である。進むも退くも地獄の消費税10%判断を先頭に、苦戦が予想される沖縄県知事選、ひとつ間違えば火の手が上がること必至の大筋合意が迫るTPP(環太平洋経済連携協定)交渉、鹿児島県・川内原発再稼働や北朝鮮拉致問題の進捗、「目玉」とした女性政策をどう立て直すか等々だ。野党も手ぐすねを引いている。さぁ問われる屋台骨の真骨頂、手腕ということである。とりわけ政策に強いとは言えぬ菅氏が何故にいつの間に「ヒーロー」になったのかの背景が、浮かび上がる。
菅氏は秋田県から集団就職で上京、やがて横浜市議から国政に転じた叩き上げの党人派だ。党人派は官僚出身者とは異なり、苦労人だけに、周囲に目配りが利く。誰彼がナニを求めているか、一発で見抜く眼力が育まれている。人心収らんにたけているということである。時にコワモテぶりを発揮して恫喝、時に相手の心をとろけさす優しいオヤジに変じてみせるなど変幻自在、「丸め込みの名手」「ケンカ上手」なのだ。菅氏をよく知る自民党ベテラン議員が言っている。
「菅氏の究極の目標は、いつの日か幹事長ポストに就くこと。政権維持に全ての頭が回っている。そのうえで、幹部人事を一元化、内閣人事局を作って官僚を政府で牛耳る形にしたことが大きい。これで菅氏は、官僚をヒレ伏させることに成功した。気も短いが、一方でこうした官僚や議員の面倒も陰でよくみている。約束事は守るし、口も堅く、政局観もナカナカ。これもまた強みになっている。機を見るに敏、遊泳術も得意ワザのひとつ」
遊泳術について言えば、初当選直後はリベラル集団派閥の宏池会(現・岸田派)に入り、やがてタカ派の麻生太郎元総理の側近となり、次いで安倍総理の超側近にといった具合だ。頑固で一直線の性格を自ら知る安倍総理は、菅氏の直言だけには耳を貸すともいわれているのである。
さて、政権大ピンチの今、屋台骨の「次の一手」は何か。筆者は、安倍総理への早期の衆院解散・総選挙の進言とみている。ズバリ、来年1月の通常国会冒頭解散、2月の総選挙で政権再構築を賭けて国民の信を問うだろうということである。他に解散を打つタイミングはせばまっている。菅氏にとっても、政治生命のかかる勝負となる。
◆政治評論家・小林吉弥