職場環境の変化は見知らぬ風習を知るキッカケになりうる。昨オフに広島からオリックスにFA移籍した西川龍馬も、新チームの環境に面食らったひとりである。
それは2月4日15時過ぎのこと。宮崎市清武総合運動公園内の室内練習場「日向夏ドーム」から「SOKKENスタジアム」へと続く通路に、あくせくファンにサインを書く西川の姿があった。総勢100人近いファンが沿道に並んでいたのだ。その道中を直撃同行した。
「日南では考えられない光景ですよ」
と色紙やユニフォームにペンを走らせながらひと言。昨季まで所属していた広島がキャンプを張る天福球場(日南市)では、グラウンドや室内練習場を移動する途中にファンサービスをする機会はほとんどなかったという。それでも新天地のファンの熱量に応えるように、サインや写真撮影に没頭した。
小さい色紙やトレーディングカードにも、器用にサインを書いていたが、
「今日だけで何枚のサインを書いたと思うんですか!」
そう言って笑顔を見せたのも束の間、
「今、何分ですか。この後、囲み取材が15時15分頃からあるんですが、間に合うかな」
どうやら左脇に抱える2本のバットが作業効率を悪くしていた。まだ50人近くのファンが西川を待っている。記者が「バットを持ちましょうか」と言うと「助かります!」と爽やかにお礼を言うなり、サインを書く手はスピードアップ。
ギリギリの15時15分過ぎまでファン対応するも、全てのファンの要求に応えることは叶わず、「ごめん、ここまでで!」と、SOKKENスタジアムの会見スペースまでダッシュした。なんとか間に合った囲み取材では、
「ファンとの距離の近さに驚いています。でも、時間の許す限りはファンサービスを大事にしたいと思っています」
戸惑いながらも、新天地の文化に順応することを誓った。球界関係者が言う。
「宮崎でキャンプをする球団の中でも、オリックスは選手とファンの距離が近いのがウリ。ソフトバンクは主力選手がサインをするかどうかは日によりけりですし、巨人も『ひなたサンマリンスタジアム宮崎』前にサインのためのレーンを設けていますが、基本的には若手選手にしか書いてもらえません。その点、オリックスは毎日のように若手からベテランまでが『ゲリラ的に』サインを書いている。不人気球団の時代が長かっただけに、ファンサービスを徹底しているんでしょう。春季キャンプにおいては、12球団で最も容易にサインをゲットできます」
郷に入っては郷に従え。新チームに溶け込むためにも、1日も早く新天地の流儀に慣れるしかない。