芸能

追悼・菅原文太 “未公開肉声”ドキュメントから紐解く「反骨の役者人生」(4)「仁義なき戦い」は俳優の“アドリブ演奏”のようだった

20140108n

 菅原文太の一大出世作「仁義なき戦い」が生まれるのに欠かせなかったのが、深作欣二監督との出会いである。ともに従来の映画界の「定型」にこだわらないタイプで、その強烈な個性同士がぶつかり、激しい“化学反応”を起こしたのだ。文太が語った伝説のヤ○ザ映画への、たぎるような思いとは──。

 鶴田浩二や高倉健で一世を風靡したそれまでの着流し任侠映画が正調ド演歌であるなら、「仁義なき戦い」で展開されていたのは、まさにモダン・ジャズのような世界であったろう。

 文太自身、昭和56年(1981年)に発刊された「東映映画三十年」(東映)でそう述べ、

〈‥‥混沌、喧噪、生々しさ、レジスタンス、荒々しさ、センチメント、アドリブ、それらがあの時大きなボイラーの中で悲鳴をあげていた。

 俺だけでなく、旭が、欣也が、梅宮が、渡瀬、室田、拓三、志賀勝が、金子さん、加藤武さん、三樹夫さん、方正さんが、思えばマイルス・デービスであり、キャノンボールであり、サム・ジョーンズ、ハンク・ジョーンズであり、アート・ブレーキィ、ボビィ・ティモンズ、リー・モーガンであったと思う〉

 と記している。相当なモダン・ジャズ好きの通であることがうかがえる文章である。

 11年前に取材した折、そのことを本人に問うと、

「そんなことを書いてたかなあ、オレ(笑)。まあ、いい加減な思いつきで書いてるだけだ」

 との答えが返ってきたのは、照れもあったのだろう。こちらがさらに、

「まさに演歌の世界だったそれまでの任侠映画のパターン化した様式美をぶち壊すという意味では、『仁義なき戦い』はモダン・ジャズだったのでは‥‥?」

 と水を向けると、

「それはそうかも知れない。演歌にしても譜面があってアレンジしたにしても、譜面通りに演奏して歌うわけじゃないですか。ジャズというのはアドリブだから。そういう意味では、そんな映画だったかも知れないね。ほんとにアドリブだったから。みんな俳優が好き勝手に演奏してそういうもののハーモニーができあがるみたいなね‥‥」

 ジャズというなら、役者以上にそんなような世界を体現していたのが監督の深作欣二だった。深作組は事前に入念に打ちあわせをしてから撮影に臨むというより、すべては現場スタート。深作組は深夜作業組の略だというジョークが出るくらい、深作監督の撮影は夜中まで続くのがつねで、深夜になればなるほど誰よりも元気になるのが深作組であったという。

 スターや名の売れた役者より無名でもおもしろい個性派を起用し、撮影現場で彼らから、

「こういうことをやっていいですか」

 と芝居のアイデアが出れば、おもしろがって受けいれる監督でもあったという。

「まあ、サクさんは定型がなかった監督とも言えるんじゃないかな(笑)。俳優に好きにやらせて、その中のいいものを見つけて、『それだあ!』てなこと言うからね、あの人は。『ダメだあ!』なんて掛け声はしょっちゅう。それでも、誰も深作さんの怒声にビビるヤツもいなければ、逆にあの叫び声が心地よかったんじゃないかな。だから、生き生きとしてみんなも動けたと思う。それはやっぱり愛情があったんだろうなあ、サクさんに。オレにも拓ぼん(川谷拓三)にもまったく同じように公平に扱ってくれるというのが、みんな何とも心地よくてね。深作さんの術にはまってしまっている。何も言わなくても、勝手に一人ずつが動いてくれるという雰囲気になってくるんだなあ」

 とは、文太の述懐であった。

◆作家・山平重樹

カテゴリー: 芸能   タグ: , , ,   この投稿のパーマリンク

SPECIAL

アサ芸チョイス:

    なぜここまで差がついた!? V6・井ノ原快彦がTOKIO・国分太一に下剋上!

    33788

    昨年末のスポーツニュース番組「すぽると!」(フジテレビ系)降板に続いて、朝の情報番組「いっぷく!」(TBS系)も打ち切り決定となったTOKIOの国分太一。今月30日からは同枠で「白熱ライブ ビビット」の総合司会を務めることになり、心機一転再…

    カテゴリー: 芸能|タグ: , , , , |

    医者のはなしがよくわかる“診察室のツボ”<寒暖差アレルギー>花粉症との違いは?自律神経の乱れが原因

    332686

    風邪でもないのに、くしゃみ、鼻水が出る‥‥それは花粉症ではなく「寒暖差アレルギー」かもしれない。これは約7度以上の気温差が刺激となって引き起こされるアレルギー症状。「アレルギー」の名は付くが、花粉やハウスダスト、食品など特定のアレルゲンが引…

    カテゴリー: 社会|タグ: , , , , , |

    医者のはなしがよくわかる“診察室のツボ”<花粉症>効果が出るのは1~2週間後 早めにステロイド点鼻薬を!

    332096

    花粉の季節が近づいてきた。今年のスギ・ヒノキ花粉の飛散量は全国的に要注意レベルとなることが予測されている。「花粉症」は、花粉の飛散が本格的に始まる前に対策を打ち、症状の緩和に努めることがポイントだ。というのも、薬の効果が出始めるまでには一定…

    カテゴリー: 社会|タグ: , , , , |

注目キーワード

人気記事

1
上原浩治の言う通りだった!「佐々木朗希メジャーではダメ」な大荒れ投球と降板後の態度
2
フジテレビ第三者委員会の「ヒアリングを拒否」した「中居正広と懇意のタレントU氏」の素性
3
3連覇どころかまさかのJ2転落が!ヴィッセル神戸の「目玉補強失敗」悲しい舞台裏
4
ミャンマー震源から1000キロのバンコクで「高層ビル倒壊」どのタワマンが崩れるかは運次第という「長周期地震動」
5
巨人「甲斐拓也にあって大城卓三にないもの」高木豊がズバリ指摘した「投手へのリアクション」