芸能

追悼・菅原文太 “未公開肉声”ドキュメントから紐解く「反骨の役者人生」(12)最後まで信念を貫いた

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 昭和54年には、長谷川和彦監督の「太陽を盗んだ男」(沢田研二主演)で日本アカデミー賞を受賞。名実ともに高倉健と肩を並べるまでの大スターになったといっていい文太であったが、その後の歩みは、役柄同様、健さんとはかなり違って、そこでも対照的であった。

 昭和50年のNHK大河ドラマ「獅子の時代」の主演に始まって、文太はテレビ出演にも意欲的で、「徳川慶喜」「元禄繚乱」「利家とまつ」など同大河ドラマにも多数出演し、多彩な役柄を演じた。

 一方では声優にも挑戦し、平成13年(2001年)のアニメ映画「千と千尋の神隠し」では釜爺〈かまじい〉役を演じたほか、15年の「良寛さん」、18年「ゲド戦記」、24年「おおかみこどもの雨と雪」などに出演した。

 文太の最後の主演映画となったのは、平成15年4月の東陽一監督の「わたしのグランパ」(石原さとみ共演)。その公開翌日の同年4月6日からスタートしたのが、ラジオのニッポン放送の番組「菅原文太 ホーホーふくろう~ふくろうは眠らない」(後に「菅原文太 日本人の底力」)であった。同番組は財界人や専門家、医師らを招き、日本を語るという構成で、文太は亡くなる直前までパーソナリティをつとめた。

 筆者が文太氏にインタビューしたのは、ちょうどこの「わたしのグランパ」公開とラジオ番組出演直前の時で、氏は70歳目前、まだまだお元気な盛りであったが、映画界の状況に関しては少しばかり懐疑的であった。インタビューの最後、締めくくるようにして語ってくれたのは──、

「『仁義なき戦い』や『トラック野郎』にしても、終わってしまえば映画はそれで終わりだから。ホントはそんなものがすっ飛んで、忘れるぐらいの作品が出てこないといけないんでね。これから誰かが、そういう何か規模は小さくても続いていくような映画の方向性を作ってくれるといいんだけどなあ。角川歴彦さんあたりがやってくれるといいんだけども、書いといてくれよ、そういうふうに(笑)。いや、バランバランで今、やっているじゃないか。映画会社はあってなきがごとしだからね。事実、自分のところでもう作ってないんだから。人の作ったものを寄せ集めて封切っているだけでしょ。そうじゃなくて、継続して流れていくような、ひとつの川の流れを作ってくれないとさあ。それにはまあ財力も必要だし、志も必要だしね。金だけじゃダメだから。映画に対する志みたいなものがあって財力がある人が、そういう流れを作ってくれると一番いいなと思っているんだ。今のところ大映を買った角川歴彦さんに期待しているから。ついでに、もっと別の会社も買っちゃったらいいんじゃないかと思ったりしているんだけど(笑)」

 私生活では平成13年10月、長男で俳優の加織を踏切事故で亡くす悲劇もありそれは文太にとって、

「もう仕事はしたくない」

 と吐露せしめるほどの痛恨事であった。

 平成21年(2009年)に山梨県北杜市に移り住み、農業生産法人を設立、有機農業に取り組んでトマトなどの野菜作りにいそしむ文太は、

「食料危機が来てからでは遅い」

 と農業の重要性を説いた。

 平成23年3月11日、故郷の仙台市も襲った東日本大震災を機に、被災者の救援活動の支援や反原発運動を展開。

 俳優活動を控える休業宣言をした翌24年には、政治支援グループ「いのちの党」を結成。原発や特定秘密保護法案に反対する活動にも取り組み、同年の衆院選では脱原発を掲げた新党「日本未来の党」を支持した。

 亡くなる1カ月前の平成26年11月1日にも、文太は、沖縄知事選で米軍基地の辺野古移転反対を訴え、3候補者の応援演説に立ち、

「弾はまだ残っとるがよ」

 と自らの代表作「仁義なき戦い」の名セリフを引用、それは候補者が当選した決め手になったのではないか──と言わしめるほど、会場を盛りあげるセリフになったという。

 命の灯も尽きようとしているのに、己の身も顧みず、文太は最後まで自分の信念を貫いたのだった。

 それは文太自らが評した「トラック野郎」桃次郎の、「自分のことはあまり考えず、無欲で、他人や子どものために一生懸命汗を流して危険も厭わず大暴れする」姿にも重なるものがあったかも知れない。

◆作家・山平重樹

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