「ウチから仁川(にがわ)の競馬場が見えとるよ」
一昨年に近親者が亡くなり、兵庫県宝塚市在住の親戚、正雄さんが東京までやってきて、会う機会が何度もあった。「仁川の競馬場?」と最初は首をかしげながらも、阪神競馬場のことだとわかったが、阪神と仁川(宝塚市)が、すぐには結びつかない。関西の人、あるいは毎週競馬を見るようなファンでなければ、そんな認識ではないかと思うのだが…。
地元の人が「仁川の競馬場」と言うのは、最寄り駅が阪急今津線の仁川駅だから。仁川駅で下車すると改札から地下に降りる階段があり、そのまま道なりに数百メートル進んだところが正門になっている。
行きはスマホの路線情報に従い、新幹線の新大阪駅から地下鉄御堂筋線に乗って、大阪梅田駅で阪急神戸線に乗り換え。特急なら2駅の西宮北口駅で阪急今津線に再び乗り換えて、宝塚に向かって3駅の仁川駅で降りた。
だが、正雄さんによれば、仁川駅から今津線で宝塚駅までは4駅、そこからJR宝塚線で新大阪駅に行くとこができるという。宝塚駅にはもちろん宝塚大劇場があるわけで、このルートなら宝塚気分を味わうことができる。
というわけで、帰りは仁川駅から2駅の逆瀬川駅で降りる正雄さんに、宝塚駅まで送ってもらうことになった。
宝塚市出身の知り合いのライターにも聞いてみると、「子供の頃は、土日は競馬をやりに来るおっちゃんたちで混むから、電車に乗ったらアカン」と言われて育ったそうだ。今と違い、かつては相当ガラが悪かったのだろう。
出かけた3月31日はGI大阪杯が行われた。今津線の車内は20代としか思えない若者、カップルなどで息苦しいほどだった。コンサートか何かのイベントでもあるのかと思っていたら、仁川駅でゾロゾロ降りて、同じ方向に向かって歩いていくではないか。駅で降りたらおっちゃんの群れについて行けばレース場に着くのが公営ギャンブルのあるあるだが、ここでは若者に引かれて競馬場に行く。
正門へは大きく右折するゲートがあるが、その付近の桜はまだ蕾だった。桜が満開になるのは次週、GI桜花賞が開催される頃か、と思いながら歩く。季節がやや遅れたことで開催時期と重なり、今年は桜吹雪の中を馬が走る。まさに桜花賞だ。
競馬場には気ままに入れない。入場制限をしているので、予め入場券の予約が必要だ。入り口でスマホに送られてきたQRコードなどを提示し、ピッとやってもらう。電車ではあまりおっちゃんを見かけず、若者で混雑していたのはこれが理由か。今のシステムに乗り遅れていたら、おっちゃんはますます肩身が狭くなりそうだ。
JRAの場内はどこも同じだが、イベント会場のホールのようだ。入り口を通るとすぐ、コロッセオ式のパドックがある。人がコオロギの群れのようだ。指定席の予約はしていないので2階、3階あたりでウロウロしながら馬券を買うことにしよう。
エスカレーターでスタンドの3階に上がると、ターフビジョンの向こうになだらかな六甲連山の山並みが見えていた。六甲連山の最終地は宝塚周辺なので、競馬場から見える辺りが最も東になる。そして競馬場の右には、伊丹との境にある武庫川が流れている。
馬券は6Rから。4歳以上1勝クラス、ダート1800メートル、11頭立て。午前中から堅めのレースが続いており、ここも大荒れはないだろう。勝ち負けになるのは6枠の⑦と7枠の⑧と⑨、8枠の⑩と⑪の5頭だけだ。このうち馬体重が大きく増減しているのが、プラス16キロの⑪。基本的に、馬体重が10キロ以上増減している馬は買わないのがポリシーだ。
⑩は6番人気に評価が下がっている。何か理由があるのだろうか。⑩や⑪は全く買う気がないわけではないが、絡めると買い目が多くなので、結論は⑦⑧⑨。低配当だが、⑥⑦の枠連1点に絞る。
結果は中段から追い込んだ⑦と⑧のゴール前勝負になり、1着⑧、2着⑦で、3着は⑪。枠連⑥⑦は370円。これを2000円買っていた。軽い運試しだったが、当たればよし。
(峯田淳/コラムニスト)