特別国会が14年12月24日召集された。選挙から特別国会まで大きな動静はなく、年明けの通常国会の施政方針演説まではいわば「空白期間」。総理は「4カ月ぶりのゴルフをエンジョイ」(毎日)したり、三越で開かれていた「報道写真展を鑑賞」(産経)したりと、勝利後の気休め行事もあり、国政はぼんやりとした記事が続いた。
その一方、主要メディアの編集委員や解説委員は、選挙から翌々日の16日夜に総理と会食していた。報じた赤旗によると、参加者は読売、朝日、毎日、日経、NHK、日本テレビ、時事通信。西新橋のすし店に19時から2時間20分滞在し、「完オフ(完全なオフレコ)が条件の会食とされ、何が話し合われたかは語りませんでした」(赤旗)。
主要紙幹部とのオフレコ会食は今に始まったことではないが、この会食で不思議なのは、総理お気に入りの産経と天敵の東京がいなかったことだ。産経はふだんから密接だから、あえて集団で会わなくてもよしとし、東京はどういう形でもお話にならないから避けたということだろうか。挨拶程度の意義だとしても、会期前の空白期に何が話し合われたのか気になる。
本来はこうした空白期こそ、報道機関は検証すべきことがあるはずだ。とりわけ先の解散総選挙では、当初から「大義なき」と断罪したにもかかわらず、その決断の真因が何だったのか丁寧に掘り返したわけではなかった。
読売は解散の翌日、総選挙の真意を「長期政権にらみ決断」と記した。朝日を含む多くのメディアは「今なら勝てると判断」したと報じた。そもそも総理の専権事項である衆院解散は基本的には与党が勝てる時にしかしないものだ(野田政権ではそうはならなかったが‥‥)が、総理本人が「勝てる」と思ったのは間違いない。
与党議員から聞いたところでは、今後の政治日程を見ると選挙はズバリこの日しかないという話だった。確かに今年の政治スケジュールは重い課題が並ぶ。
1月は予算審議、2月は九州・川内原発再稼働、春は統一地方選。そして5~6月は集団的自衛権の関連法案の審議。その間に12年選挙時の公約破りであるTPP合意や社会保障関連の制度見直し(女性関連の配偶者控除や年金の第3号被保険者問題)など国民生活に直接響く政策議論があって、9月の自民党総裁選へと続き、10月に消費税10%増税実施という予定だった。今年はどのイベントを見ても、政権に対して批判しか出てこないような流れだったのだ。
政権への風を読んでみよう。
すでに沖縄をはじめ、いくつかの首長選で自民勢が敗れる事例が出ているが、この春の地方選で敗北が続いた場合、政権への不支持が目立つようになる。消費税を予定どおり10%に上げた場合、景気の悪化は確実だ。当初の予定では次の総選挙は16年暮れ。同年夏には参院選もある。このスケジュールでは政権交代すら発生しかねない情勢悪化の可能性もあったのだ。
今回、総理は17年春に増税を先送りした。次の衆院選は18年暮れ。しばらく先の話だが、仮に景気が悪化して退陣することになっても、本人は一向にかまわないだろう。もし6年続ければ、叔父の佐藤栄作(7年8カ月の任期)に次ぐ“大宰相”の仲間入りだからだ。
ただ、五輪を前に、どれだけ経済が悪化しているか‥‥どれほど新聞を読んでもまるで想像がつかない。
◆プロフィール 森健(もり・けん) 68年生まれ。各誌でルポを中心に執筆。企画・取材・構成にあたった「つなみ 被災地のこども80人の作文集」「『つなみ』の子どもたち」で、被災地の子供たちとともに、第43回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。