日本人にとって長年の宿敵だったルイス・ネリを、GW頂上決戦で見事にKOでマットに沈めた、プロボクシングのスーパーバンタム級4団体統一王者の井上尚弥。
試合直後は海外のボクシングメディアでも、全階級を通じたPFP(パウンドフォーパウンド)ランキングで1位に返り咲くなど、「世界に井上あり」を改めて浸透させた。
ところが、5月18日にヘビー級の4団体統一戦でウクライナ出身のオレクサンダー・ウシクが、英国のタイソン・フューリーを2-1の判定で下して4団体を統一すると、米国ボクシング専門誌「ザ・リング」は、ウシクをPFP1位に、井上は2位へと後退させた。この順位変動が連日、日本国内では物議を醸しているのだが…。スポーツライターが話す。
「5月12日にWOWOWで放送された『生中継!エキサイトマッチSP』で、ボクシング評論家のジョー小泉氏が、リング誌のPFPのランク付けの裏事情を説明しました。実は、日本では重要視されがちな4団体統一というベルトの数が評価されたわけではなく、どの相手に勝ったのかが重要だと。そしてリング誌が井上を評価したのは、昨年のスティーブン・フルトン戦だったとリング誌の関係者が話していたことを、小泉氏は打ち明けていました。日本では先日のネリの方が有名ですが、どうやら米国ではフルトンの評価がネリ以上に高く、その相手をKOで倒したことが一気に評価を上げたというわけです。そう考えると、ウシクが判定とはいえ負かしたフューリーは、最重量級のヘビー級で一時代を築いた選手だけに、フルトン以上の評価だったということでしょう。それがリング誌のPFP1位と2位が入れ替わったストレートな事情だと考えられます」
井上が1位に返り咲くには階級を上げる必要があるのかなど、各メディアが議論を交わしているが、どうやら階級よりも重要なのは「相手」の評価のようだ。
そんな中、ファンが「いつか対戦してほしい」と名前を挙げるのが、裏PFP1位との呼び声が高い、現在WBA世界ライト級王者のジャーボンテイ・デービスだ。なぜ「裏1位」なのか、前出のスポーツライターも苦笑いだ。
「デービスは素行が悪く逮捕歴もあります。一歩間違えば刑務所行きスレスレの私生活で、ギャングとの付き合いもあるようですね。そして、これまでキャッチウェイト(正規の階級の規定体重ではなく、事前に両選手間の話し合いで決められた体重)で戦うことが多かったことで、正統派を評価するPFPには反映されませんでした。ひと言でいえばアウトローなんですね。ですが、実力は29戦29勝27KOと折り紙付き。倒した相手には、3階級王者や無敗のスター候補など有名どころが目白押しです。そんなデービスと井上との対戦は階級が違い過ぎるとデービス本人は否定していますが、井上のことは動画でも言及してその実力を認めています」
しかし、井上の夢の対戦相手としてデービスの名前が浮上すると、YouTubeではデービスの動画にアクセスする日本人が急増。そして、それを見た井上信者が口を揃えて「これはナオヤでも勝てないんじゃね?」と震え上がったという。
「中でもトレーナー相手の壮絶ミット打ちは1分足らずのショート動画ですが、スローで見ると『(パンチの)残像しか見えない』と、体幹の強いデービスが繰り出す、あまりに速くて正確なショートアッパーや、その打ち込む音に度肝を抜かれたようですね。『洗濯機が壊れた時にしか聞いたことないようなエグい音』と表現する人もいました」(前出・スポーツライター)
その動画は数十秒のミット打ちのあと、過去の猛者たちを一発KOする場面が立て続けに散りばめられている。これも井上信者を戦慄させた理由だろう。それでもPFP1位には「倒した相手」が重要というなら、「井上VSデービス」の頂上決戦がいつか実現してほしいと思うのは、やっぱり日本人だからか。
(飯野さつき)