イギリス南西部デボン州にあるダートムーアは、切り立った山々に囲まれ、広大な草原が広がる、国立公園に指定されるエリアだ。周囲には古代遺跡が点在し、それらにまつわる不思議な伝説が多い。
その伝説のひとつが「ダートムーアの獣」なのだが、実はこの獣に関する目撃談がこの地域では今なお、あとを絶たないというのである。欧米の不思議な伝説や現象に詳しいジャーナリストが解説する。
「この獣は別名『地獄の猟犬 (ハウンド・オブ・ヘル)』といわれる亡霊犬の群れのことです。今から遡ること三百数十年前の17世紀、この地にリチャード・キャベルという悪名高い地主がおり、狩猟に夢中になっていました。毎日のように猟に出かけては、動物を撃ちまくっていたそうなんです。ところがある日、この男が突然、妻を撃ち殺した。この鬼畜とも思える所業に対し、街の住人たちから『こんな恐ろしいことができるのは、リチャードが悪魔に魂を売ったからに違いない』との声が出ました。そして1677年、リチャードが亡くなり埋葬されてから毎年、彼の命日になると、どこからともなく亡霊の犬が群で現れ、その魂を地獄に連れ去るため、墓の周りで吠えるようになった」
これが古くからダートムーアに伝わる「地獄の猟犬」である。
命日に現れる亡霊犬の集団は、ギラギラした赤く光る目で、よだれを垂らしながら墓の周りを走り回り、遠吠えを繰り返すというが、
「1988年、何者かに家畜が襲われる事件が発生しました。目撃者の証言によれば、襲ったのは犬のような大きな獣だったとされます。1990年代後半にも同様の被害があり、この時も黒い毛で覆われた獣の姿が目撃された。地元住民の間で、『地獄の猟犬』が現世に蘇ったのではないか、という噂が一気に広がることになりました」(前出・ジャーナリスト)
黒い毛に覆われた犬のような獣の目撃情報は2000年以後も続き、2007年と2008年にも、不鮮明ながら写真に収められた。
イギリスには「Dangerous Dogs Act(危険な犬に関する法律)」があり、これで指定された犬種は繁殖や販売、譲渡はもちろんのこと、飼育自体が禁止されている。ただ、中には隠れて飼っている者がおり、それが繁殖してしまった場合、困って捨ててしまうケースがあとを絶たない。
「ダートムーアは国立公園に指定される、切り立った山々と広大な草原が広がる地域ですからね。犬を捨てるには、うってつけの場所といえます。ここに捨てられた犬が狂暴化して家畜を襲っているのでは、という説もありますが、証拠はありません。ただ、ここに得体のしれない恐ろしい獣が生息していることは間違いなく、それが蘇った『地獄の猟犬』である可能性もゼロではないということです」(前出・ジャーナリスト)
はたして「捕獲」の可能性はあるか。
(ジョン・ドゥ)