セ・リーグの首位を走る阪神は5月23日、マツダスタジアムで行われた広島戦に2-1で勝利し、貯金を今季最大の7とした。4カード連続勝ち越しで、2位の広島とのゲーム差は2.5差へと開き、団子レース状態のペナント争いから頭ひとつ抜け出しそうな勢いだ。しかし「今年の阪神はそんな余裕はない」と、スポーツ紙デスクは言う。
「最近の4カード12試合で8勝4敗とはいえ、8勝のうち1点差ゲームが実に6試合とあります。どの試合も、投手陣に非常に大きな負担が掛かっていることは明白です」
確かに、辛くも勝利したという試合が目立つ。その原因は貧打線だろう。4番を打つ大山悠輔の打率は2割1分3厘(5月23日現在)と低調そのもので、本来ならチームを引っ張るはずの一人、佐藤輝明は集中力を欠いた守備が岡田監督の逆鱗に触れ、現在は2軍落ちという惨状だ。昨シーズンの首位独走時とは「攻撃陣」が明らかに違うのだ。
今季の阪神は、45試合終了時点でチーム打率2割2分8厘、得点は1試合平均3.22点となっている。それが昨年は、1年通算で打率2割4分7厘、平均得点は3.88点だった。なるほど、今季の辛勝ゲームが多さにもうなずける。打線の惨状は深刻なのだ。
つまり、現在の首位は投手陣の踏ん張りに寄るところが大きいわけだが、先発陣にも一抹以上の不安があるようだ。前出のスポーツ紙デスクが話す。
「21、22年と最多勝を獲得した青柳晃洋と、デビュー3年間で29勝をあげている伊藤将司が不調で2軍落ち。昨シーズンは防御率のタイトルを獲った村上頌樹が、去年の出来には及んでいない。才木浩人と西勇輝が頑張っていますが、現状、先発投手陣が万全だとは言えない状況です」
そんな中、阪神投手陣に光明が見えたという話が伝わってきている。23日に行われたファームのくふうハヤテ戦に先発した、現在は育成契約の高橋遙人が3イニングを無安打無四球。出したランナーはエラー出塁の1人だけという、完璧な投球を披露したのだ。現場で観戦したスポーツライターが話す。
「ファームとはいえ、3回をわずか36球で片付けました。観戦したファンからは『えげつない』の声が上がっていましたね。高橋は21年オフに左肘のクリーニング手術を受けましたが、22年の春季キャンプで違和感を覚え、同年4月にトミー・ジョン手術を受けました。復活を期した23年は6月にも再び手術を受けるなど、とにかく度重なる手術とリハビリのここ数年でした。しかし今年は、キャンプから徐々ピッチを上げています。今季最長の3イニングを投げきり、今後は少しずつ投球回数を増やしていくようですね」
高橋といえば「投げれば無双状態」と、トラ党から崇められた逸材。21年には、わずか7試合の登板ながら(全試合先発)2完封。4勝2敗で防御率1.65の好成績を残している。
1軍昇格は早くてもオールスター後とされているが、高橋の劇的カムバックが実現すれば、まさに「救世主」として、阪神球団初となる「アレンパ」に貢献することは間違いない。
(石見剣)