ウクライナにパレスチナと、世界に暗い影を落とす戦争はともに長期化している。その理由の1つに、戦争の〝無人化〟が挙げられる。まさに「新たな戦争」だが、それを実現させているのがハイテク兵器だ。進化を続け、今や驚異的な〝殺人能力〟を持つまでに至っている。
今年4月、イスラエルの独立系メディアがガザ攻撃にAI(人工知能)が使用されていることを指摘。その名を「ラベンダー」という。国際ジャーナリストの山田敏弘氏が解説する。
「ラベンダーはハマスや工作員のような『人的標的』を割り出すために使われます。すべてのガザ地区居住者のデータを把握し、危険度を1〜100までの段階で評価し、標的を指令して空爆するわけです。が、問題なのは精度。10%の誤爆が含まれているのです。15〜20人の巻き添えが承認されて、高位の標的の空爆では100人が巻き添えを食らったケースもあったとか。AIの判断をどこまで許すのか、それは問われねばなりません」
AIなどを使う最先端の兵器開発は、アメリカ国防総省の研究機関「DARPA」が先導してきたという。現在では、空中をさまよいつつ、敵を見つけると搭載されたAIがこれを判断し、攻撃を行う「自律型致死兵器」(LAWS)を世界各国がこぞって開発・運用しているのが実情だ。
空中でなくとも、ロシアの「ポセイドン」のように、深海を航行する自律型の原子力魚雷もある。ポセイドンは核弾頭搭載可能で、使用すれば高さ500メートルの津波が発生して、世界が終わるとも言われる。
他にもトルコ製の長時間滞空型無人航空機「バイラクタル TB2」や、中国製でフグに似た形状から「ドローンフィッシュ」と呼ばれるAI搭載の無人兵器もあり、今や百花繚乱といった具合なのだ。
一方、昨年12月に国連総会でLAWSへの対応を急ぐべきとの決議が採択された。が、ロシアなど4カ国が反対し、中国やイスラエルなど11カ国が棄権して足並みはそろっていない。
「すでに民間で相当に開発が進んでいますから、これを後戻りさせるのは難しいでしょう。ロシアとウクライナの戦争がまさにそうですが、明らかに戦力が異なる非対称型の戦争では、戦力で劣る国にとってAI兵器は有効な手段。劣勢とされる国が使いたくなるのも当然でしょう」(山田氏)
そんな中、AI兵器を使用するイスラエルのドローンに注目が集まっている。「ラニウス」と名付けられた対人用の暗殺AIドローンだ。大きさは約30×30×16センチで重量はわずか1.25キロと超小型であるが、その小ささを生かして建物内に侵入、ターゲットを発見するや背後から近づいて自爆するという。
世界中から非難を浴びながらも戦争を続ける為政者、ことにロシアのプーチン大統領は暗殺を危惧していると言われる。昨年5月にはクレムリン宮殿へのドローン攻撃もあった。暗殺に特化したドローン兵器の存在に戦々恐々としている可能性もある。
「18年には南米ベネズエラのマドゥロ大統領の暗殺未遂事件でドローンが使われています。ラニウスのような暗殺ドローンは今後、戦争の場面のみならず、テロ行為にも多く用いられるようになるかもしれません」(山田氏)
AI兵器が投げかける人間社会への深刻な疑問は尽きそうもない‥‥。