これでは現場はやってられない。何のことかというと、5月27日、28日と2日続けてXでトレンドワード入りした「障害者の入浴介助」だ。
発端は京都新聞が報じ、Yahoo!ニュースが大々的に取り上げた「入浴介助に男性が来た時は泣いた」「女性障害者の性被害」というショッキングな見出しがついたオピニオン記事だった。
障害者や高齢者の介護は同性介助が基本だが、重度の障害がある人だとそうもいかない。特に障害者福祉の現場で問題となっているのが、トレンド入りした「#入浴介助」だ。
重度障害者は、入浴用の車椅子に乗せても滑り落ちる。浴槽に入れてからは、2人がかりで両脇を抱えていないと、沈んでしまう。さらに水や石鹸で体が滑りやすく、女性職員が3人がかりでも困難を極めるのだ。
特に肘や肩、腰に脂肪がついていると、女性職員が抱き抱えようとしても、ムチムチした腕と体がツルリと女性職員の手からすり抜け、そのはずみで女性職員3人と障害者が転倒、全員が風呂場のタイルに頭や腰や大腿骨を激しく打ち付けるというアクシデント、転倒事故が日常茶飯事で起きている。
障害者施設で看護師として働いていた筆者が、浴室で転倒して頭がパックリと割れ、血を流す女性障害者を救急外来に連れて行ったのは、一度や二度では済まない。女性障害者も施設の女性職員も、骨折と大ケガの危険と隣り合わせである。
事故防止のために、腕力があって腕が長く、手も大きい男性職員が女性障害者の入浴を手伝わざるをえないのだが、男性職員が介助に入ると一部の女性障害者から、京都新聞の記事のように「性加害者」呼ばわりされることがある。障害者とその家族、障害者の代理人や後見人の弁護士が職員を取り囲んで糾弾する。身の危険を感じる同時に、気が優しい職員ほど、障害者福祉施設を辞めていってしまう。
「#入浴介助」がトレンドワード入りしたXにも、施設の男性職員を誹謗中傷する投稿がずらりと並ぶ。障害者の役に立ちたいと、善意から福祉施設に就職した男性職員に罵詈雑言を浴びせるヒマがあるなら、自分たちが障害者の入浴介助ボランティアをすればいいではないか、と指摘したところ、
〈ボランティアは自発的にやるものだ。オマエに強要されるものではない〉
という返事がきた。つまりは、障害者の入浴介助を誰もやりたがらないのだ。
障害者施設で働く職員を追い込んでいるメディアの代表格は、募金着服事件を起こした、日本テレビの「24時間テレビ」だろう。1978年の放送開始以降、障害者への同情を誘う番組構成にブレはなく、障害者福祉の現場と暗部をクローズアップしたことはない。毎年、旧ジャニーズ事務所のタレントと芸能界の大御所が障害者を励まして、番組は終わる。旧ジャニーズ事務所の性加害を報道しなかったように、日本テレビは障害者や代理人が福祉職員に罵詈雑言を浴びせる現実を報道してこなかった。
今年の番組内容がまだ決まっていないというなら、ダンスやトレーニングで日頃から体を鍛えている女性アイドルグループやSTARTO ENTERTAINMENT所属タレントに、入浴介助をさせてみるといいだろう。
(那須優子/医療ジャーナリスト)