ナイチンゲール記者のレポートで気になったのは〈彼と近い関係者たちは「大谷は打撃と同じレベルの情熱を投手には持っていない。単にできるからこそ二刀流をやっている」と語った〉という記述だ。
確かに大谷は、12年オフにNPBの日本ハムに入団を決める前から二刀流での活躍を頭に描いていたわけではなかったようだ。
球界関係者が語る。
「大谷は投手として高校から即メジャー入りを目指していた。強行指名した日本ハムの球団幹部らが実家を訪れても、本人は話を聞いているだけで、質問を返してくる様子もなかったといいます。入団拒否を覆す具体的な提示を迫られ、当時の栗山英樹監督や山田正雄GMが大谷の心を揺さぶる案として考え出した苦肉の策が二刀流だったのです」
結果、大谷は日本ハム入りを果たす。とはいえ本人の思いとは裏腹に、当時から投手としての実力よりも打者としての実力が明らかに抜きん出ていた。先の球界関係者が続ける。
「高卒1年目から長い手足をたたんで内角球を本塁打にしてしまう技術に長けていた一方で、投手としてはコントロールも未熟で、これから作っていく状態でした。正直、エンゼルス時代も当初の3年間は評判通りではなく、地元メディアもそろそろ叩こうかという中で21年、打者で46本塁打、投手として9勝2敗と二刀流でブレイク。かつて偶然に示された二刀流の道だったからこそ、〝球道者〟の彼が楽しんで野球に取り組め、技術を世界最高ランクまで向上させることができたのです。それでもセンスでどうにでもできた打者とは違い、投手としてはいまだに完成形ではない。だからこそ、本人としては投手としての自分を伸ばすことが今後もテーマであり、投げ出したくないのです」
先のナイチンゲール記者はこうした事情の一部だけを加味して記事にしたのだろうが、ドジャースの思惑はもちろんのこと、大谷自身も「二刀流続行」には前向きなのである。
しかし先にも触れたように、現在の投手・大谷には不確定要素が多い。そのため投手を続ける以上は先発にこだわる大谷に対し、ドジャースは「ニュープラン」を用意しているというのだ。
「投手復帰を早めるのであれば、現実的にはストッパー転向です。かつての同僚・トラウトを三振に切って取ったWBC決勝戦でもすでに経験していますが、落ちるボールもスイーパーもある大谷は短いイニングで力を発揮しやすい。もちろん打者も兼任するのですから、完全な守護神というわけではなく、勝負どころのピンポイントやロングリリーフ、場合によっては〝限定守護神〟です。打順が回ってこない回にブルペン入りし、投げなくても相手に脅威を与えるピースになれることをドジャースは想定しています。いつでも登板の可能性があるとなれば、ファンの期待値も高まるでしょう」(MLB関係者)
夢の続きが再開されるまでは、ひとまず打者・大谷だけで夢を見させ続けてくれるだろう。