アベノミクスで物価上昇 インフレ対策といってもリスク回避で金融商品は購入するな!
将来のインフレに対する不安は、お金を運用する商品を売る側にとって、老後不安と並んで有力商材の双璧だ。不安につけ込んで、手数料の高い運用商品を買わせたいというのが、銀行や証券会社などの狙いだ。
先般の総選挙でアベノミクスを掲げた安倍政権が大勝した。アベノミクスは、デフレを脱却して、マイルドなものとはいえインフレを目指す政策だ。インフレでは、持っているお金の価値が下がる。生活防衛のためには、「株式、不動産、外国通貨など、リスクを取った運用が必要」と言うのが金融業者の言い分だ。
物価上昇の可能性が将来の生活にあってひとつのリスクであることは間違いない。特に、今後の収入の可能性が限られている高齢者にとっては、深刻な問題だ。
しかし、将来のインフレを恐れるあまり、インフレ対策のためと称する金融商品を購入して、過剰なリスクを抱え込んだり、余計な手数料を払ったり、ひどい場合には詐欺に引っ掛かったりする人が少なくない。筆者の率直な印象では、インフレそのもののリスクよりも、インフレ対策を掲げて売られる金融商品やサービスのほうがよほど恐ろしい。
インフレになって持っているお金の価値が下がることは心配だし不愉快だが、冷静に考えると、モノ全般に対する生産効率は、アジアの新興国などのおかげもあって、年々改善している。
また、働く機会を持っている人はインフレになると、もらえる賃金が増える傾向になるし、年金の給付金にも物価スライドの仕組みが組み込まれている。
一方、インフレに関するリスクを完全に除去するには、現実的でないくらい大きなコストやリスクが必要だ。物価連動国債は今後個人も買えるようになる予定だが、目下、将来の物価変動がゼロだとすると元本の7%以上の損が出るマイナス利回り商品だ。低金利だとはいえ、安全にプラスの利回りの運用が存在することを思うともったいない。
金などの商品を買って、物価をヘッジする考え方もあるが、商品価格が下がった時に損が出るリスクを抱えることになる。外貨を買うのも、同様の「投機」だ。
株式は債券よりもインフレに強いが、常に強いわけではない。高利回りが出るのはインフレの前半期(例えば昨年の日本株)で、金融政策が引き締めに転じるインフレの後半期には下落リスクが大きくなる。不動産も似た性質を持つ。
海外での不動産や事業への投資を仲介する業者なども、簡単に信用してはいけない。そもそも「本当にうまい話」なら他人に紹介するはずがない、というレベルから疑うべきだ。
インフレ対策は直接的には意識しないで、内容がわかる商品で分相応のリスクを取り、自然体で運用するのがいい。それが結果的にはインフレへの備えの一つになる。
◆プロフィール 山崎元(やまざき・はじめ) 経済評論家。58年、北海道生まれ。東京大学経済学部卒業後、三菱商事に入社し、野村投信、住友信託、メリルリンチ証券など12回の転職を経て、現在は楽天証券経済研究所客員研究員。獨協大学経済学部特任教授。「全面改訂 超簡単 お金の運用術」(朝日新書)など著書多数。