ギャンブルを楽しもう!ただし、「最大」と「平均」の損失を計算して冷静に継続するのだ
読者には競馬ファンが多かろう。実は、筆者も毎週馬券を買っている。では、競馬にかけるお金は、どのような費目に分類すべきだろうか。筆者の考えでは「教養娯楽費」だ。筆者はギャンブルを肯定的に捉えている。日本にカジノを作ることにも賛成だ。人は、ギャンブルを通じて人生や社会の仕組みを学ぶことが出来るし、もちろん一時を楽しむことが出来る。
一方、長くギャンブルを楽しむためには教養娯楽費にふさわしい管理が必要だ。
仮に、週末のJRAの馬券だけを買い、1日に1万円勝負するとしよう。ひと月を4週間と考えるなら、最大限の損失額は8万円だ。これは、お金の運用でいうなら「リスク」の考慮に相当するが、この金額の損が家計に影響するようなら、1日1万円の勝負はあなたにとって分不相応だ。
次に平均的な損得を考えよう。JRAは、先般、馬券の種類別の控除率(JRAの取り分)を変更したが、控除率は、平均的には25%だ。あらゆる勝負事にあって、胴元が取るテラ銭(実質的手数料)は重視すべきファクターだ。テラ銭に鈍感なギャンブラーは例外なく二流以下だ。率直に言って競馬の25%は大きい。競馬で生活出来るなどとは考えない方がいい。
JRAが25%取るということは、毎日1万円馬券を買う競馬ファンは、ひと月に平均的に2万円損をするということだ。1日当たり2500円だ。映画を1本見るよりも少し高いが「映画よりも、競馬の方がずっと楽しい」と思えて、ひと月当たりの娯楽費として2万円が問題ないと判断出来るなら、あなたは胸を張って競馬を続けていい。
毎月2万円は贅沢だ、あるいは、ひと月に8万円も損をすると家計に影響が出る、と思うなら、あなたは馬券代を縮小すべきだ。
誰にとっても、「負けると痛い」と思う程度に張り合いがあって、負けが込んでも生活に響かない程度の加減があるはずだ。この加減が分からない人は、ギャンブルに近づかない方がいい。借金をした状態でギャンブルをしている人には「依存症」の疑いがある。向かうべきは、金融業者ではなく、病院だ(本当です!)。
ギャンブルを楽しむ上で必要な第一の心構えは「負けを取り返そうとして賭けないこと」だ。ギャンブルでも相場でも古来「大損」は、小さな損を取り返そうとする時に起こっている。自分の負けを認められないのは、ギャンブルにも投資にも不向きな性格の最たるものだ。
最大限の損失と平均的な損得を意識すべきこと、そして負けを認める冷静さや借金して賭けないことの重要性は、お金の運用にあっても同じことがいえる。そして、幸いなことに、お金の運用は、正しく参加するなら、競馬よりもずっと参加者に有利に出来ている。
◆プロフィール 山崎元(やまざき・はじめ) 経済評論家。58年、北海道生まれ。東京大学経済学部卒業後、三菱商事に入社し、野村投信、住友信託、メリルリンチ証券など12回の転職を経て、現在は楽天証券経済研究所客員研究員。獨協大学経済学部特任教授。「全面改訂 超簡単 お金の運用術」(朝日新書)など著書多数。