エース対決として先発マウンドに上がるのは、高卒生え抜きの叩き上げ同士だ。何といってもピリッとしない現在の阪神ローテにおいて、正真正銘の大黒柱は才木浩人(25)だろう。在京球団スコアラーが解説する。
「今季はスライダーのキレ味が増して、バッターが的を絞れずにいます。150キロ超のストレートと落差の大きいフォークを武器にする、パワーピッチャーからワンランク上がりました。昨年のWBCの壮行試合で、大谷翔平(29)にツーストライクから投じたフォークを右手1本でスタンドまで運ばれたのが記憶に新しい。このワンプレーで反骨精神に火が灯され、今季にまで至る投球スタイルの改良につながっている。かなりショックを受けていたといいますからね」
16年に神戸市立須磨翔風高校からドラフト3位で入団。甲子園出場ゼロの〝隠し玉〟ながら、2年目には先発とリリーフとして1軍で22試合に登板。大型右腕として将来を嘱望されていた。ところが、19年に右ヒジ痛に悩まされ、20年オフにトミー・ジョン手術を受けて育成選手に降格。そんな冬の時代を経てようやく日の目を見たのだ。
「22年7月に1軍マウンドで復帰しました。リハビリ期間中は投げられないストレスから円形脱毛症になるほど追い込まれていたようです。それだけ野球に没頭してしまう性分なのでしょう。遠征先でタニマチと夜の街に出かけることもなく、宿舎で過ごすのが常なんだとか。遊び人で有名な先輩の西勇輝(33)率いる〝西一派〟からの誘いを断るほど徹底しています」(スポーツ紙デスク)
交流戦終了時点(以下同)で、8勝1敗3完封と先発完投型のエースとして「沢村賞」まで射程圏内に捉えたが、そこに待ったをかけるのが巨人の戸郷翔征(24)だ。くしくも5月24日の阪神戦で、史上89人目のノーヒット・ノーランを達成して気を吐いたが、在京球団スコアラーが続ける。
「才木と同様にスライダーを効果的に使っています。こちらは昨年のWBCでダルビッシュ有(37)にレクチャーされた曲がり幅の大きいもの。そこに150キロに満たないストレートとフォークを組み合わせた配球で、三振とゴロアウトを量産しています。春先にはツーシームの練習もしていましたが、今のところほとんど投げていない。後半戦の秘密兵器として隠しているのかもしれません」
どこか余力すら見え隠れするが、もはや絶対的エースとしての風格すら漂ってきた。
「ドラフト下位や育成で入団した後輩に対する面倒見が抜群です。ドラフト6位で高卒入団した苦労を知っているからこそ、見て見ぬフリができないのでしょう。試合の勝利特典でもらえる、高級なお肉をはじめとする贈呈品を『どうせ、独身で食べきれないから』と言いながら後輩に譲る。新品同様の洋服を『もう着ないから』と手渡すこともしばしばです。文字通り〝優しい先輩〟として、まだ収入の少ないファームの若手たちに支持されています」
その人柄であの大先輩も籠絡してしまったようで、
「オフに宮崎県延岡市で、若手数人を連れて自主トレをするのが恒例。その費用はすべて戸郷持ちなのですが、メディアの取材には『菅野さんがそうしてきたから』と前エースの菅野智之(34)を立てるような言い回しで抜かりがない。コメントを見聞きした菅野本人もまんざらでもないようで、心なしか今季は人当たりがよくなった。今の巨人投手陣は戸郷を中心に回っていますよ」(球団関係者)
秘蔵エピソードが飛び交う投手戦は僅差の勝負となった。それでも勝利数、奪三振数、完投数、完封数で4冠の虎のエースに、現時点では勝ち星が舞い込んだ。