「審判の方も人間ですから。たまには間違いもありますよ」
巨人・阿部慎之助監督のこの言葉が案外、真理かもしれない。
それは6月30日の巨人・広島戦(東京ドーム)でのハプニングだった。阿部監督が「あれ、そうだったっけな」と苦笑いしてしまう、審判団の「勘違い」が連発されたのだ。
6回の広島の攻撃、二死二、三塁になったところで、巨人ベンチからは杉内俊哉投手チーフコーチがマウンドの高梨雄平のもとへ。ここで広島ベンチが代打・二俣翔一をコールすると、すかさず阿部監督は高梨から船迫大雅への交代を審判に伝えた。野球ファンなら誰もが見たことがある「よくある光景」だ。
ところが、ベンチに戻ろうとした高梨が審判に呼び止められ、再びマウンドへ。つまり、投手交代は認められないというわけだ。これには高梨、杉内コーチ、他のナインがキョトンとした表情で、突っ立ったままとなった。
結局、約5分間の中断後、責任審判がアナウンス。
「申し訳ありません。投手交代はできないと勘違いしていたんですが、投手コーチはベンチに帰っていないため、投手交代はできます」
ところが、である。なんとこの日は7回の広島の攻撃時にも、また同じような珍事が起きたのだ。
先頭の代打・大盛穂が登場すると、阿部監督は回またぎでマウンドに上がっていた船迫から中川晧太へのスイッチを告げる。そしてこの交代を、山路球審がなぜか認めなかったのだ。
阿部監督が戸惑いながらベンチへ戻ると、山路球審は慌てて駆け寄り、交代を認める。この場面について、スポーツ紙デスクは苦笑いしながら説明する。
「代打が出ていなければ船迫が続投しなければいけませんが、代打が登場したことで投手交代は認められます。阿部監督が『あれ、そうだったっけな』と思ったのはこれですね。明らかな審判の勘違いですが、6回、7回と連発では、さすがに観客席からはヤジが飛んでいましたね。東京ドームですから、暑さボケは言い訳にできないでしょう」
巨人は3-2で勝利し、事なきを得たわけだが、一歩間違えば「勘違い」では済まされなかったかもしれない。
こうした「審判の珍ジャッジ」が、選手のファインプレー並みに強い印象を残したことが、過去には多々ある。いくつか振り返ってみよう。
2006年7月9日、これもやはり広島・巨人戦だ。3-3で迎えた9回裏。広島は二死から代打・井生崇光が左前安打で出塁し、次の東出輝裕の打席で二盗を成功させる。
ところが、井生はアウトになったと勘違い。ベースを離れて一塁コーチのもとに歩み寄ると、再確認。当然ながら巨人は、送球を受けた一塁手の李承燁が井生にタッチし、3アウトに…と思われた。
これに二塁塁審は「タイムがかかっていた」として、二死二塁からの試合再開を宣告。井生はタイムをかけていなかったのに、なぜこのような事態になったのか。その理由には驚くばかりだ。
なんと塁審は「走者が泥を払うため、タイムをかけると思った。気を遣ったつもり」と説明したのだ。確かに同様のケースでタイムをかけることはよくあるが、まさかの「審判による予測」が珍事を起こす結果となったのである。
納得できない巨人の原辰徳監督は激しく抗議したが、タイムは有効のまま。その後、東出がタイムリーを放ち、井生がホームイン。4-3で広島のサヨナラ勝ちという、後味の悪い一戦となった。
2009年5月9日の日本ハムVSオリックスは、スコアボードの間違いを鵜呑みにした審判のミスが、悲劇を生んだ。
3回のオリックスは一死から大村直之が右前安打。次の山崎浩司のカウント2-2の時に、コトは起こった。
スコアボードの表示は実際とは異なる「3ボール1ストライク」。オリックスベンチは正しいカウントを認識していたようだが、1塁ランナーの大村と松山秀明一塁コーチは3ボール1ストライクと思い込んでいた。
打者の山崎が5球目をファウルすると、大村と松山コーチは一塁塁審に「3ボール2ストライクですよね」と確認。すると塁審はスコアボードを見ながら、それを認めてしまったから大変だ。
フルカウントと信じていた大村は、次の6球目でスタート。投球がボールになったと知ると、当然のように四球だと思い込み、二塁ベース手前でスピードを緩めてしまった。その結果、捕手からの送球で、大村はタッチアウトである。
当然ながら大石大二郎監督は猛抗議するも、判定は覆らない。しかも最悪なことに、球審が大混乱を招く場内アナウンスをブチかます。
「2ボール2ストライクでしたが、スコアボードの表示を訂正せずに、3ボール2ストライクでやってしまい、大村選手が勘違いしてスチールしましたが、2ボール2ストライクからのボール球なので、盗塁をアウトにして、試合を再開します」
この走塁が響き、オリックスは2-3で惜敗。試合後に球審が、
「やはり一度プレーを止めて、ボードを訂正すべきだった」
と反省していたことが印象深い。
こうしてのちに「珍判定」としてネタになる審判の勘違いジャッジ。だが大事なペナントレースを左右しかねないだけに、当事者はとても笑えないのである。