サッカーの欧州選手権「ユーロ2024」は、ベスト16の決勝トーナメント1回戦が終了した。前回王者のイタリアは、組織力で圧倒されてスイスに完敗。強豪国同士の激突となったフランス対ベルギーは、レ・ブルーの鉄壁の守備を崩せず、タレント揃いのベルギーが姿を消した。
大会は残すところ7試合となり、ここから佳境を迎える。準々決勝のカードで大注目は、7月5日(日本時間25時)に行われる、ドイツ×スペインの一戦だろう。ちなみに、7月3日現在のブックメーカーの優勝予想オッズでは、6.0×5.5という大接戦の2国だ。
ところでこの2国、22年に開催されたW杯カタール大会のグループリーグで日本が勝利していることが記憶に新しい。だが、今大会はあの頃の〝面影〟はまったくなく、それぞれが完全に別のチームといっていい。
まずは、開催国のドイツ代表だ。グループステージで敗退したカタール大会後はハンジ・フリック監督を続投させたが、23年9月、国際親善試合での日本とのリベンジマッチに1-4で惨敗すると、ドイツ代表の歴史で初めて途中解任された。
後任に36歳の青年監督のユリアン・ナーゲルスマン氏が抜擢されると、さっそくチーム改革に乗り出した。欧州サッカー事情に詳しいサッカーライターが解説する。
「戦術家のナーゲルスマンは、ベテランで天才パサーのMFトニ・クロースを説得し、3年ぶりに代表復帰させてドイツの〝心臓〟に指名しました。そして、ボランチの相棒には同じパサータイプではなく、フィジカルに定評があるロベルト・アンドリッヒを起用し、猟犬のようにボールを奪う泥臭い役割を任せたんです。また、戦術家の一方で、スタメン落ちでベンチの雰囲気を悪くするスター選手は、代表の常連であっても容赦なく構想外にする非情な一面を持っています」
今大会で現役引退を表明しているクロースだが、いきなり監督の期待に応えている。開幕戦のスコットランド戦で102本中101本のパスを通す、驚異の成功率99%をたたき出したのだ。
さらに、バイエルン(ドイツ)で急成長したMFジャマル・ムシアラと、レバークーゼン(ドイツ)のリーグ無敗優勝に貢献したMFフロリアン・ヴィルツの若手アタッカーに自由を与え、ここまでの全4試合で10得点と攻撃陣が爆発中だ。GKマヌエル・ノイアーを中心とした守備陣も2失点に抑え、憎たらしいほど強かったドイツ代表が帰ってきた印象を世界中に与えている。
一方、カタールW杯では日本に敗れた影響で調子を落とし、決勝トーナメント1回戦でモロッコにPKで敗れたスペインは、大会後にデ・ラ・フエンテ新政権を発足させた。
13年からユース世代を任されてきた指揮官は、教え子をチームの中心に据えて世代交代を図った。これが成功し、登録メンバー26名のうち、25歳以下の選手9人が代表入りしている。
「所属チームのバルセロナ(スペイン)で衝撃をもたらした16歳の神童FWラミン・ヤマルが筆頭でしょう。彼を迷うことなく招集するだけではなく、レギュラーに大抜擢しています。21歳のFWニコ・ウィリアムスとともに、両サイドから鋭いドリブル突破でチャンスを演出していますね。初戦のクロアチア戦では『ユーロ2008』決勝のドイツ戦以来、137試合ぶりにボール支配率で相手を下回りましたが、スペインの代名詞であるポゼッションサッカーから変貌し、縦に速い攻撃ができることを証明しました」(前出・サッカーライター)
12年ぶりの優勝を目指すフエンテ監督は、短期決戦を見据えている。38歳のDFヘスス・ナバスと34歳のDFナチョという経験豊富なメンバーを選出し、若手のサポート体制を盤石にしようとしているのだ。これは、2002年の日韓W杯で、トルシエジャパンがFW中山雅史とDF秋田豊のベテランをサプライズ選出したことを想起させてくれた。
両監督の共通点は、ベテランに敬意を表しつつ容赦はしない、さらに若手の才能をグイグイ伸ばしてくれる点だろうか。
どうやら、事実上の決勝戦とファンが期待する「ドイツ×スペイン」は、「上司にしたい監督」の激突とも言えそうだ。
(風吹啓太)