「タレント本とは、膨大で払いきれない有名税に対するタレント本人の青色申告書である」という私見を持つ、週刊アサヒ芸能連載でおなじみの浅草キッド・水道橋博士がタレント本の批評をまとめた「本業2024」(青志社)を上梓。〝遺書〟のつもりで出版したという秘話を聞いた。
─まず実際、この本を手に取ると、まぁ重い。計ったら718グラム! で、661ページ! スタッフに反対意見はなかった?
博士 本というより鈍器。通勤通学ではまず読めないね。でも出版元の青志社は今まで分厚い本を手がけてきた会社で、阿蘇品蔵社長は元「週刊女性」の伝説的な編集長。これまでも芸能本を数々手がけている。特に石原プロとの関係は密接独占なの。写真集も社史も作っているし、昭和の芸能界の生き字引みたいな人でね。もともと「仁義なき戦い」の舞台、広島の呉出身で永ちゃんの高校の2年先輩で武闘派なの。
田原総一朗さんのパーティーに行ったら、他の出版社の人たちから「博士、あの阿蘇品さんと組んでるんですかー」と驚かれた。阿蘇品さんって元学生ボクサーでそれも日本代表レベル。「黄金のバンタム」と言われた時代、世界戦に出るような人のスパーリングパートナーをずっとやっていた猛者なの。出版界隈で「敏腕編集者」って呼ばれてるけど「敏腕」の意味が違うのよ(笑)。
俺は今頃、Googleドキュメントを使って本やライブの進行を作るようになったけど、阿蘇品さんには「博士、あなたも文士だったら、Googleがどうだとか言ってないで1対1、紙で勝負しましょう!」と言われてね。最終的に661ページを紙面に打ち出してゲラチェックするという、とんでもないアナログ作業が待っていた。でも、元々俺はそういうのは大好きじゃない?
─電子書籍もある中で、あえて紙で勝負すると。
博士 2021年に出した前作の「藝人春秋Diary」(スモール出版)という本も560ページあって、町山智浩さんに「こんな本作っちゃダメだよ。この分量なら新書を3冊書けるよ!?」と怒られた。
でも俺と京極夏彦は、このサイズじゃなきゃ気が済まないのよ。坂本龍一さんも電子書籍はダメだって。「本は紙の束のフィギュアで、その形と重さですでにパフォーマンスをしている」─と。だから、本の重さも重要なの。「枕頭の書」って言い方もするけどね。まぁ、別に読み通さなくてもいいの。
この本は述べ累計700万冊売れた83編の本の書評が載ってる短編集でもあるし、付記で正確に芸能人のその後の話も書いているから、この20年くらいの芸能史の第一級の資料にもなっている。これで何年楽しめる?
─1日1章ずつ読んでも3カ月近くかかる。
博士 どこから読んでも、興味がある人のページだけ読んでもいい。むしろ、なかなか捨てられない本だよ。
─本好きからすると、本を捨てるとか売るとか信じられないんですが。
博士 俺の場合、本どころじゃなくて、紙そのものへの偏愛なの。小4の時から自分が出した手紙のコピーを保存してる。手紙が送りっぱなしになるのが嫌でね。ファンレターも全部、保存。高田(文夫)先生からのFAXもすべて保存してる。しかも高田先生は手書きだからね。余計に愛しいのよ。高田先生のためだけに、いまだにFAXを解約してない。