NHK時代は「ニュース7」「首都圏ネットワーク」のキャスター、「あさイチ」のリポーター、そして「大河ドラマ『篤姫』紀行」のナレーションなどで活躍した内藤裕子(48)。現在は生島企画室に籍を置き、唯一無二の「カレーアナウンサー」の道を歩んでいる。
22年6月に発売された自身初のレシピ本「内藤裕子のカレー一直線!!」(池田書店)は今も売れ続け、カレー界のロングセラーになっている。
「今年6月に『生島ヒロシのおはよう一直線』(TBSラジオ)に出演して、カレーの話をしたら、反響が大きくうれしかったです。本を作るにあたって、4日間の撮影期間でおよそ70のレシピを自宅のキッチンで再現した時は本当に大変でした。『カレーは自然の光で撮りたい』というこだわりがあって、陽のある時間帯に撮り切れるように、エクセルで進行表を作ったら、スタッフの方に『何だかロケのスケジュールみたい』って笑われてしまいました」
幼い頃から母が作る「なすとひき肉のキーマカレー」がお気に入り。99年にNHKに入局すると、赴任先の熊本で絶品カレーと出会う。「洋食の店 橋本」のビーフカレーだ。
「ベースは小麦粉を炒めて作る欧風カレー。よく煮込んだ牛肉がゴロッと入っていて、これがバターライスとよく合うんです。入局1年目の給料ではそう頻繁に食べに行けないので、給料日の楽しみにしていました。初めての一人暮らしが熊本で、新人の頃はとにかく忙しくて、家で料理をする時間もない。東京にいる母が物産展などで購入して送ってくれたレトルトカレーに何度も救われました」
東京アナウンス室に異動すると、10年春スタートの「あさイチ」で初代リポーターに抜擢された。
「生放送のライブ感を大切にするよう心がけました。初回が放送される1週間ほど前に母が亡くなってしまい、放送を見せられなかったのが残念でしたが、性の問題や健康ネタなど、幅広いテーマに対応していく中で、スタッフと一緒になって考えたり、ずいぶん鍛えられました」
17年春にNHKを退局。これまでなかなか作れなかった家族との時間を過ごす中で、「カレー大学院」の存在を知り、選抜試験を経て3期生として入学する。
「17年9月からの半年間、人生の中でこんなにカレー漬けの日を送ったことはありませんでした。授業がある日は朝からみっちり講義を受けて、その後は課題やレポート作成に追われる毎日でしたが、カレーのことを知れば知るほど好きになっていくのを感じました。例えば、60年代に日本で誕生したカレーの固形ルウ。最初は固くて、石鹸と間違われたこともあったそうですが、開発者の苦労や努力があったからこそ、今みんながおいしいカレーを味わえる。カレーを通して人を知り、たくさんの人間ドラマに触れることができました。朝ドラにできるような題材がたくさんあるんですよ(笑)」
卒業論文のテーマは「バーモントカレー ヒットの理由をテレビの果たした役割から考察する」。筆記試験でも好成績を収め、「首席卒業」の栄誉を勝ち取った内藤は、その年に前出・生島企画室に所属。フリーアナウンサーとしてスタートを切って6年が経つ。
「声で勝負したい─。ラジオやナレーションの仕事をさせていただく中で、強く思うようになったんです。これからもマイクの前に立ち続けたいですね」
もちろん、「カレーアナ」の本分も忘れていない。
「吉田類さんの『酒場放浪記』にあやかって『内藤裕子のカレー放浪記』なんてどうでしょう(笑)。私がカレー屋さんを食べ歩いて、『この味を守っていきたい』という店主さんの思いやレシピにまつわるドラマをお伝えしたいですね」