夏の中断期間に入ったJリーグだが、第24節を終えた時点で、2位のガンバ大阪と3位の鹿島アントラーズに勝ち点5の差をつけて首位に立つのは、町田ゼルビアだ。
開幕前、サッカー専門誌の優勝予想に名前を挙げる識者は皆無で、サポーターにとっては大健闘以上のサプライズだろう。
だが、シーズン前半を振り返ってみれば、快進撃を続けるJ1初挑戦の〝新参者〟に風当たりは強かった。
ロングスローまでの準備作業の長さ、ファウル数の多さ、高校の指導者上がりの指揮官の存在など、J1の〝先輩〟たちにはやたらと鼻についたのか、あっという間にアンチが急増し、今や嫌われチームのレッテルを貼られている。
ただし、それこそが町田の強さだった。ロングスロー戦術はそもそも反則でもなければ、今では他のクラブも取り入れている。さらに既存の戦法に固執せず、町田はシーズン中に「進化」を見せている。
7月20日の第24節、横浜F・マリノスとの「国立決戦」では、0‐2のビハインドで迎えた後半終了間際、横浜の自陣でスローインを獲得すると、DF望月ヘンリー海輝がボールが滑らないようにタオルで拭いた。一定の動きから明らかにロングスローをするとみられていたが、なんと望月は近くにいた味方に投げた。そこからすぐさまクロスを入れると、意表を突かれた横浜の選手は対応できず、FWミッチェル・デュークが豪快なヘディングを決めたのだ。
Jリーグを取材するサッカーライターが感嘆する。
「町田のファウル数の多さは球際の攻防にこだわっているからです。球際でボールの奪い合いに負ければ試合の主導権を取られてしまうため、練習でさえ海外のクラブのように激しく接触することがあります。それ以外では、町田のサッカーは実にシンプルです。自陣内ではリスクが高いので細かいパス回しはせず、ロングキックでフォワードに合わせる。ポストプレーで競り勝つか、ボールがこぼれればMFが回収し、次の攻撃を仕掛けます。開幕直後は、初対戦のクラブの選手たちが町田のサッカーを舐めている様子が伺えましたが、今では『試合中にやるべきことがしっかり決まっていて、実行できる能力もあって強い』と、渋々ながら認める発言が増えてきました」
もちろん、この戦術を徹底的に叩き込んだのは、高校サッカーの王者・青森山田を指揮していた黒田剛監督だ。
知将の戦術はJ1でも通用することを示したわけだが、驚くべきはマネージメント能力の高さにあった。J屈指の強化のプロフェッショナルで知られる原靖フットボールダイレクターとタッグを組み、的確な補強を敢行。シーズン前には、元日本代表で経験豊富なDF昌子源を熱意で口説き落とした。また、ベルギーでくすぶっていた日本代表のGK谷晃生を期限付き移籍で加入し、「点を取られなければ負けない」サッカーの基盤を完成させた。
また、本気でJ1優勝を狙っていると思わせたのは、今夏の移籍市場での活発な動きだ。
7月9日にチームを牽引していたパリ五輪代表のMF平河悠がブリストルシティFC(イングランド)への期限付き移籍を発表し、大幅な戦力ダウンが危惧された矢先、電光石火で湘南ベルマーレからDF杉岡大暉を期限付き移籍で獲得したのだ。杉岡は19年と22年に日本代表に選ばれ、左サイドバックとセンターバックを任せられる職人タイプの選手だ。
さらに周囲を驚かせたのは、22年のカタールW杯にも出場した日本代表MFの相馬勇紀の加入だろう。
「23‐24年シーズンはポルトガルリーグのカーザピアに期限付き移籍し、リーグ戦32試合で5ゴールを記録しました。しかし買い取りオプションが行使されず、6月末に退団し、保有権を持つ名古屋グランパスに復帰。再び欧州リーグへの移籍を視野に動いていましたが、そこで町田がラブコールを送り続け、最終的に3億円以上の違約金を用意することで、獲得レースを制したわけです」(前出・サッカーライター)
平河と同じくドリブラータイプで穴埋めは十分どころか、スター選手が加わったことでJ1初優勝が射程圏内に入った今、ホームゲームでの集客力は大いに期待値が上がるだろう。
フロントと現場のしたたかな戦略でチーム力アップに成功した町田。このまま自分たちのスタイルを貫き、アンチを黙らせることができるのか。〝異端〟だが、実にシンプルで勝利に貪欲なクラブが、中断明けも「主役」として、Jリーグを盛り上げてくれることは間違いない。
(風吹啓太)