社会

テリー伊藤対談「猪瀬直樹」(4)あの幼稚な借用書は何だったの?

20150129p

テリー 僕は猪瀬さんを尊敬しているところがあるんですよ。例えば、道路公団民営化の時、猪瀬さんは大した見返りもなく、タクシー代も自腹のような環境で夜中まで頑張っていたのを知っているから。今は全国のサービスエリアでおいしいものがいっぱい食べられるでしょう。あれは猪瀬さんが動かなかったら、今でもなかったよね。

猪瀬 そう、一昔前はまずいカレーライスと、まずいラーメンしかなかった。

テリー そうなんだよ。

猪瀬 それを「アウトレットモールにします」と言ったわけ。競争参入を取り入れて。新しいサービスも増えてワイドショーでもよく取り上げられるようになって、本当によかった(笑)。

テリー ホントそうだよね。猪瀬さんがいいことをしてきた部分は評価されてないと思う。だから僕は、例の5000万円を受け取った事件がいまだに信じられないんです。どうして受け取ってしまったんですか。

猪瀬 これはね、実は自分が選挙に出るという経験は初めてだったので、どれくらいお金がかかるのか全然わからなかった。「選挙に出るぞ」となったら、いろんな人が入れ代わり立ち代わり来るし、こちらからも業界団体や宗教団体にお願いに行く。その中の1カ所が徳洲会だったということですよね。

テリー そこからお金を借りた。

猪瀬 当時、選挙に数億円かかるんじゃないかとか、いろんなことを言われていたんです。例えばポスターを2万枚貼らなきゃいけないけど、誰がやるのか。その人件コストはどうするのか。当時、都議会の自民党は猪瀬には反対だったから、助けてくれる人がいれば、どんな人でも助けてもらおうと思っていたんですね。だから、徳洲会から5000万をお借りした。

テリー うーん。

猪瀬 だけどだんだん選挙の体制が固まってきて、自民党都連も「反対はしない」というふうになり、連合東京も「支援します」と。お金がかからなくなってきたから、借りたお金は凍結して金庫に入れておいた。

テリー 徳洲会っていろいろと噂のあったとこじゃないですか。そういうところからお金を預かること自体が問題だと思うけど。

猪瀬 だから、その時点で返せばよかった。だけど、お金を突き返したら敵に回すことになるので。

テリー 敵というのは?

猪瀬 自分からお願いしておいて、「やっぱりいらない」では相手の厚意を無にすることになってしまう。

テリー 猪瀬さんは副都知事の時代から都連との関係がうまくいってなかったんですよね。

猪瀬 僕もそこまで計算してなかったから、副都知事になった時、いきなり参議院の議員宿舎の建設計画を潰しちゃったのね。

テリー 正しかったと思いますよ。清水谷公園の隣で、あんなに緑の多いところにビルを建ててもねえ。

猪瀬 その正しいことをやったら、あの場所は都連のボスの選挙区だったのね。

テリー そうだったんだ。

猪瀬 だから僕には、政治家の根回しみたいなのがなかったんだよね。

テリー もともと作家だし、猪瀬さんは無愛想だしね(笑)。だけど、あの借用書は何だったんですか。幼稚な借用書でしたね。

猪瀬 徳田毅議員が用意した紙に記入したんです。徳田議員がみずからの事件があってしばらく沈黙していたために、「書かせましたよ」と早く説明してくれなかったので僕が勝手に作ったみたいに報道されたけど。

テリー あと、一水会に360万円を提供したっていうのは何だったんですか。

猪瀬 あれは、五輪招致中に(記者の)引っ掛け質問に答えた一部を抜かれて、「アラブは喧嘩ばかりしてる」と書かれたことがあった。そのままではいけないから、(一水会代表の)木村(三浩)氏に、パレスチナの大使にアラブ15カ国の大使を全部集めてもらって、話し合う場を作ることを頼んだんです。そうした経費も含めて彼に支払った。それ自体は問題ではありません。

テリー うーん。猪瀬さんの横に、ちゃんとした側近がいなかったのも問題だったね。

猪瀬 だから僕は「政治家」という意味では、本当にアマチュアだったね。

テリー 作家に戻った今、どんなことに力を入れていこうと思っていますか。

猪瀬 もうちょっと中長期の視点で物事をとらえたものを書きたいと思っています。政治家って大変なのよ。昨年も突然、解散総選挙になったけど、ふだんからそこを意識していなきゃいけないから。

テリー 当選か落選かで、天国と地獄ですもんね。

猪瀬 極端に言えば、選挙のことを第一に考えるのが政治家の仕事なんですね。選挙のことだけ考えてなかったのが俺だったんだよね。あるパーティで政治家同士の会話が聞こえたんだけど、「盆踊り何回行った?」「200回」「俺、300回」とか言ってるわけです。とても僕にはできない(笑)。

テリー そういうことだ。盆踊りに使ううちわが問題になった議員もいたしね。

猪瀬 今はそういう環境ではない場所にいられるんだから、政策的なものも含めて、日本がこれからどうしたらいいかということを、もっと大きな視点で考えていきたい。

◆テリーからひと言

 僕らは猪瀬さんが道路公団民営化をやってくれた恩恵を被っていることを忘れてはいけないと思う。今後も日本を元気にする仕事をしていってください!

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