今季のセ・リーグのペナントレース争いは、まるで昨季のVTRを見ているようである。昨季は7月に入ってから広島カープが10連勝して首位に立ったものの、その後方から一定間隔で付かず離れずに食い下がるチームがあった。それが岡田彰布監督率いる阪神だった。
忘れもしない2023年7月28日からの阪神VS広島3連戦。首位のカープが甲子園に乗り込み、野村祐輔、森下暢仁、大瀬良大地を立てて引き離しにかかったものの、阪神の圧倒的な強さで逆襲(1分2敗)を食らい、首位から陥落した。
その後、阪神は連日ドラマチックな勝利を重ね、あの流行語「アレ」に向かって突き進んだ。広島の新井貴浩監督は、今季もまた8月前半の9連戦を「勝負どころ」とみた。そして2023年秋からこの点を反省・分析し、対策を練ってきた。
なぜ昨季のカープが勝負どころで失速したのか。分析の結果は、主力選手に蓄積した疲労によるものではないか、というものだった。最も大事な時期に、一部の選手たちの「競り合う力」が落ちていたのだ。この重大な気付きがベースとなり、今季の大胆な采配が生まれた。
プロ野球界の常識として、勝っている時にはあまり動かない方がいい、とされる。ところが新井監督は、その真逆を行く。カープは7月30日のDeNA戦から8月4日の中日戦まで6連勝していたのに、8月6日からの巨人、阪神、DeNAとの9連戦から突然、これまでの戦い方を変えた。そのひとつが、先発投手のローテーションをリセットすることだった。
従来のローテーションどおり登板するのは、あまり疲労を溜めない体質の床田寛樹だけ。他の3投手(森下、大瀬良、九里亜蓮)は、中8日から10日とし、順番も不規則にした。これで生まれる空白は、これまで2軍で調整していたアドゥワ誠、ようやくエンジンがかかってきた玉村昇悟、さらに主に2軍で投げていた森翔平、野村祐輔らで埋める。
この考えは、野手においても同様だ。2軍で調整していた末包昇大をこのタイミング(8月6日)で1軍に上げた。彼はその最初の試合(6日の巨人戦)ですぐに7号ソロと2塁打を放ち、カープ打線を引っ張っていく。
試合の前半では秋山翔吾、野間峻祥、菊池涼介、上本崇司らのベテラン・中堅が引っ張っていくが、後半に入るといつの間にか二俣翔一、大盛穂、中村奨成らの若手が加わって活力を保っている。
新井カープはその9連戦中の阪神3連戦を2勝1敗で乗り切った。新たな戦い方に入ったカープは今、大事な3連戦の初戦の先発を、主に若手が担う。そしてどんなプレーでもトライすることが推奨され、その結果は問われない。
こうした戦い方はチームを活気づけ、コトを起しやすくする。ひと口で表現するなら「プロ化した高校野球」のごとき戦い方である。ペナントレースはこれから、劇画のようなドラマ展開が待っているような気がしてならない。
(迫勝則/作家・広島在住)