今、最も面白いバラエティー番組は「平野レミの早わざレシピ」(NHK総合)だと断言する私にとって、10月14日の放送回はヒヤヒヤものだった。
料理愛好家の平野レミが生放送で十数品目の料理を放送時間内に作り、ゲスト達は調理の手伝いや出来上がった料理の試食を行うこの番組。せっかちというか粗雑というか、レミのキャラクターだから許される、およそ料理番組では見られないような「ボウルの底でにんにくを叩き割る」「豆皿の底を使って、フライパンのバターを引きのばす」「冷凍うどんで鍋の具材をかき混ぜる」などなどの荒業を見せるわ、NHKでは御法度なのに自分の著書や監修したフライパンを宣伝するわ。その都度、ゲストや進行役のNHKアナウンサーがあたふたするのが毎回、楽しみでならない。
その「早わざレシピ」、スポーツの日の10月14日に放送された回は、大谷翔平が所属するドジャースとメッツがワールドシリーズ進出をかけたナ・リーグ優勝決定戦の第1試合が9時10分から生中継されるため、普段よりも短い放送時間になってしまったのだ。
これによってペースが狂わされたのか、あるいはイライラしていたのかは分からないが(なにせ、いつもドタバタしているので)、事前に用意されていたプチトマトの切り方が気に入らなかったレミは「誰、やったの、こんなこと。嫌だな」と言って、そのプチトマトをバシッと投げ捨てたのだった。このハプニングに出演者一同は大慌て、アナウンサーが「食べ物を大切にして下さい!」と絶叫する声がスタジオに響いた。
その姿を目にして、その昔、「ダウンタウンのごっつええ感じ」(フジテレビ系)で松本人志が演じる「キャシィ塚本」なるキャラクターが登場する料理コントを思い出した。
このキャシィ塚本というのがとんでもない情緒不安定で、アシスタント役の今田耕司や篠原涼子に向かって急に暴言を吐いたり、暴力をふるったり、セクハラをかましたり、果ては調理器具や食材を放り投げたり。今なら「即アウト」なコントだった。さすがのレミもここまでハチャメチャではないと思っていたが、まさかプチトマトを放り投げるとは。
なにかとコンプライアンスがうるさい昨今、さらに以前から「食べ物を粗末にする行為」は大きな批判を呼び、ましてやNHKだ。その後、出演者たちが「我々が美味しくいただきます」と必死でフォローしたけれども(私は大笑いしたが)、世間が必要以上に騒ぐのではなかろうかと、心配でならなかった。
1985年に「きょうの料理」(NHK)にレミが初出演した際、調理の過程での「トマトを素手で握り潰す」という行為に放送終了後、たくさんの批判がNHKに寄せられた。ところが後日、新聞に「お見事でした」と絶賛する記事が載ったことで、彼女のスタイルが支持されるようになり、そこから今日に続く「平野レミ伝説」が始まった。奇しくもそのトマトがまた、騒動の種になりそうな気配だ。
そういえば「ダウンタウンのごっつええ感じ」(フジテレビ系)が終了した理由が、当初は2時間のスペシャル枠で放送される予定だったにもかかわらず、急遽、セ・リーグ優勝決定試合の中継放送に差し替えられて松本が激怒したことが原因だった。まさかとは思うが、「平野レミの早わざレシピ」まで、野球放送が原因で終了…なんてことにならないことを祈るばかりだ。
(堀江南)