テリー 例えば移動の時って、ヒールもそうじゃない選手も同じバスに乗りますよね。そういう時の距離感っていうのかな、それはどうなんですか。
神取 前の方と後ろの方で席が離れます。同じところにいても空気感が全然違いますよね。
テリー 試合後に「たまには今日、一緒に飲もうぜ」みたいなのは?
神取 ライバルっていがみ合うことで、プラスになる部分もあるじゃないですか。だから、そういう選手もいるし、「あいつ本当に気に入らねえから」って絶対に交流しない選手もいるし、そこは二通りですよね。
テリー 神取さんは?
神取 自分はジャパン女子プロレスに入った時に、風間ルミとナンシー久美さん、ジャッキー佐藤さんと、もう四天王で一目置かれてる感じだったので、みんなでワイワイすることはあんまりなかったですね。
テリー 新入生がいきなり番長になっちゃったみたいなもんだ(笑)。派閥とかもあるんですか。
神取 全日本女子プロレスは歴史があるので派閥があったらしいんですけど、ジャパン女子はまだ全然新しい団体だったので、そこまでのものはなかったですね。自分が気づかなかっただけかもしれませんけど。
テリー じゃあ、そういうプロレス界に40年近くずっと身を置いて‥‥。
神取 本当は3年ぐらいで辞めるつもりだったんですけどね。「そのぐらいでプロレス界はある程度制覇できるだろう」って思ってたので、まさかここまでやれるなんて。すごくうれしいですね。
テリー 長年やれた理由は何だったんですか。
神取 やっぱりナメられたくないですからね。
テリー ナメられる? 神取忍をナメる人なんてどこにもいないでしょう。
神取 いや、自分というよりプロレス自体が、やっぱり斜めから見られるというか、「所詮、プロレスだよね」っていう言葉が出るじゃないですか。でも、体張って、命張ってやってるんで。そういう言葉が耳に入るのがすごく嫌なんですよ。だから、プロレスをちゃんと文化にしたいっていう思いは今もありますね。
テリー ああ、何かそれはわかるなぁ。神取さんは、こうやってお話ししても意識が高いから。でも、神取さんみたいな人ばっかりなんですか? 中にはもうちょっとお気楽な人も。
神取 いますね。時代と共に組織や団体がなくなって、個人で活動できるようになってきたじゃないですか。昔は団体に入らないと会場を借りてリングを立ててという一連の動きができませんでしたけど。
テリー 今は一匹狼でも活動できる。
神取 そうです、そうです。なので、基本的な練習がどうしても伴わなくなってくる。最近は受け身すら取れなくてもデビューできちゃうところもあるので。
テリー それは許せない?
神取 いや。でも肉体を使わなくても、それ以外の見せ方もあるので。時代の流れで、細分化していくのはしょうがないのかなとは思いますけど。でも、自分は体を使って実際に戦う。それでメッセージを残していくっていうのは守っていきたいですね。
テリー 神取さんみたいに肉体が強くなくても女子プロが好きで、その世界に身を投じたい。そういう時に、「じゃあ私の武器は何だろう」って考えたら、もしかしたらしゃべりかもしれないし、華やかさかもしれないですよね。
神取 そうですね。だから、頭を柔軟にして、それはそれだよねっていうことを認めていかないといけないと思いますね。
ゲスト:神取忍(かんどり・しのぶ) 1964年、神奈川県生まれ。15歳から柔道を始め、「全日本選抜柔道体重別選手権」3連覇(66キロ級)、福岡国際女子柔道選手権大会2位、1984年世界柔道選手権大会3位の成績を残す。1986年「ジャパン女子プロレス」入団。同年、ジャッキー佐藤戦でデビュー。ジャパン女子の四天王(ジャッキー佐藤、ナンシー久美、風間ルミ)として団体の看板レスラーに。1992年、風間ルミらと「LLPW」を旗揚げ、後に代表に就任。2011年「LLPW-X」に改称、現在は代表取締役社長兼現役女子プロレスラーとして活躍中。11月18日(月)、東京ドームシティホールにて「神取忍還暦祭り」開催。