2026年サッカー北中米ワールドカップ(W杯)のアジア最終予選を戦う、アジアの強豪国のひとつがサウジアラビア。これが大苦戦しているのだ。
グループ2位までに入れば本選出場が決まる条件で、日本と同じグループCのサウジアラビアとオーストラリアは、最大のライバルだった。
ところがフタを開けてみれば、4試合を終了した時点で、サウジは勝ち点5で3位。10月のホーム2連戦は第3節で日本に0-2、バーレーンにはスコアレスのドローで、獲得した勝ち点はたったの1だった。
すると10月24日、サウジアラビアサッカー連盟は、ロベルト・マンチーニ監督の契約解除を発表する。サッカーライターが解説する。
「昨夏に就任後、戦績は8勝5敗7分と、期待外れの結果でした。サウジ国民にとって、W杯は出場して当たり前。それだけに、国民からの大バッシングが起きていたのです。協会が守り切れなかったわけですね」
年俸は41億円、退職金として32億円を受け取ると報じられ、マンチーニ氏とは最悪の別れ方をしたといっていいサウジだが、11月に最終予選のオーストラリアとの大一番と、インドネシアとの試合が迫っているため、解雇からわずか2日後の10月26日に、2022年カタールW杯でサウジ代表を率いたエルヴェ・ルナール氏の電撃再就任となった。
ところがこの新監督人事に眉根を寄せるのは、日本のサッカー関係者だ。
「実はマンチーニ氏の後任には、元フランス代表のジネディーヌ・ジダン氏が最有力候補として挙がっていました。これまで2度、スペインの名門レアル・マドリードで指揮を執っており、スーパースター軍団を束ねる能力は優れている。一方で、監督としての経験値はそれほど高くない、というのがもっぱらの評価でした。当然、アジアの戦いは未経験で、日本にとってはジダン氏が就任してくれた方が、敵として楽な相手になったはずでした」
つまり、世界的な知名度では圧倒的にジダン氏が上だが、ルナール氏の方がはるかに厄介というわけだ。
白いシャツがトレードマークのダンディな新監督は、サウジアラビアの選手を熟知しているのはもちろんのこと、勝負師として知られる。
「2022年のカタールW杯で優勝したアルゼンチンが唯一負けたのが、グループリーグのサウジ戦でした。アルゼンチンは10分にリオネル・メッシのPKで先制点を奪い、前半終了。ハーフタイムに意気消沈している選手たちに、ルナール監督が激高したのです。その際に放ったのが『これがプレッシングなのか。メッシと一緒に写真を撮りたいのか。立ち止まって見ていないで、プレッシャーをかけろ。これはW杯なんだぞ。全てを捧げろ!』というもの。選手たちは前半とは打って変わって、目の色を変えてピッチに戻ると、後半3分と8分に立て続けにゴールを奪い、世界中が驚く番狂わせを起こしました」(前出・サッカーライター)
この試合ではモチベーターとしてだけではなく、戦術家としても一流であることを、ルナール氏は証明している。
トップレベルの攻撃陣を擁するアルゼンチンに対し、ハイラインを敷いてオフサイドを連発。リズムを狂わされたアルゼンチンは、ついに追いつくことができなかったのだ。
また、パリ五輪ではフランスの女子代表監督としてベスト8に進出。再び男子サッカー界に復帰した名将が、どんなマジックでサウジアラビアを復活させるのか。来年3月25日の日本との対戦で、高い壁として立ちはだかる可能性は…。
(風吹啓太)