MLBポストシーズンで実現したドジャース・大谷とパドレス・ダルビッシュの対決は見応えがあった。
我々の現役時代には、メジャーの大舞台で日本人対決が実現するなんて夢にも思わなかった。今年の大谷の活躍は、昨年3月のWBCで世界一を奪回した日本の野球のレベルの高さを改めて証明してくれた。ひとつ残念なのは、猫もしゃくしも大リーグ移籍を目指す状況になったこと。給料を考えると、行きたい気持ちはわかるけど、野球人としての義理人情が希薄になっているように感じる。
ポスティングでの移籍になると、球団に譲渡金が入るメリットがあるのはわかる。確かに選手と球団はウィンウィンかもしれないが、ファンの気持ちは置いてきぼりにされてしまう。大谷やダルビッシュのように日本では無敵となり、ファンが「アメリカでの活躍を見たい」と、後押しする状況になれば文句はない。今オフ、移籍を目指す巨人・菅野のように、残り少ない現役生活の最後に挑戦するというのもわかる。負け投手になったが、CS最終ステージの6戦目のDeNA戦に8回から中3日でリリーフ登板したのは、最後に球団とファンに恩返ししたかったからやと思う。菅野は何年か前に挑戦しようとしてあきらめた経緯がある。今年は15勝で最多勝を獲得して、チームを優勝に導いた。多少のわがままは許されるし、ファンは納得のはず。
でも、今まで「まだ早いやろ」という選手がたくさんいた。そして、日本にしれっと帰ってきて、しかも年俸の高い球団に自由に入る。普通は条件が悪くても育ててくれた球団に戻るのが筋。「いらん」というのなら他球団に入ってもいいが、制度としてきちんと決めた方がすっきりする。
年寄りが何を言うてんねんという声があるかもしれんけど、間違ったことは言うてないつもり。長年、付き合っていただいた当コラムが今回で最終回となった。最後は、お世話になった球界に対して自分なりの考えを書きたい。
昭和の時代と違い、今は何でも科学的に数値化され、理想のフォームが分析されている。トレーニングも効率的に最新マシンを使って鍛えられるようになった。確かに技術的なレベルは上がったし、メジャーリーガーに負けない体をしている選手が増えた。でも、本当の体の強さでは昔の方が強かった。今は「違和感」や「張り」で簡単に休む選手が多い。セ・リーグは19個で盗塁王となったが、僕は真夏の8月に、20個以上走っても何ともなかった。
今年、143試合に全試合出場したのは両リーグで12人だけ。その中の一人がソフトバンクの山川。CSの調整で訪れた宮崎のフェニックスリーグで、一人でランニングメニューをこなしていたと聞いた。しかもアップシューズでなく、スパイクを履いていたという。太ももの筋肉に負荷をかけるためというわけや。僕がいつも言っていることを実践している選手がいてうれしかった。ダッシュはスパイクを履いてやらないとアカンねん。やっぱり、結果を残している選手はわかっている。
それと、最後に全野球選手に言いたいのは、これも口酸っぱく言い続けてきたが、しょうもないヘッドスライディングやダイビングでケガをするのだけはやめてほしいということ。「アウト一回、ケガ一生」なんやから。
福本豊(ふくもと・ゆたか):1968年に阪急に入団し、通算2543安打、1065盗塁。引退後はオリックスと阪神で打撃コチ、2軍監督などを歴任。2002年、野球殿堂入り。現在はサンテレビ、ABCラジオ、スポーツ報知で解説。