これまで何回か「猫シッター」事情を取り上げた。「猫にそんなお金をかけるのか」と言われるかと思っていたが、「初めて知りました」「遠出する時に困っていたから今度、利用したい」という声がかなりあった。ペットホテルは知っていても猫シッターは初耳、という人は意外に多いようだ。そこで今回は10月に11日間、ヨーロッパに出かけた際の「猫シッター」現場について書いてみる。
我が家のガトー、クールボーイ、そうせきの3兄弟のお世話はいつものように、猫シッターのSさんにお願いした。誰にでも懐くガトーは、Sさんに甘え放題。抱っこできないクーは飼い主でも抱っこできないし、他人が来たら隠れるが、なぜかSさんには懐いている。猫じゃらしで遊び、飛び上がって喜ぶ。2年前に不在にした時は、その様子を見て驚くやらガックリくるやら。
問題はそうせきだ。飼い主にしか懐かず、人の気配がするとアッという間にどこかに隠れ、いわゆる「幻の猫」になる。これも2年前になるが、親戚に不幸があって2日ほど不在にしたことがあった。その時もSさんにお願いしたら、姿を現さないばかりか、どこに隠れているかも全くわからなかったという。
今回は11日の長丁場。はたして、そうせきは…。その一部始終をレポートしよう。
Sさんのシッターの時間は、昼頃と夜の10時頃。到着すると決まって「これから始めます」というLINEが送られてくる。ご飯、水、トイレなどをチェックし、缶詰やカリカリなどをあげてくれる。
初日はSさんを不審者と思ったガトーが、玄関で「シャー」をして怒った。しかし、すぐに「知ってる人だ」とわかり、甘えてくれたという。頭を撫でられ、気持ちよさそうにするガトーの写真が送られてきた。
しかし「クール君とそうせき君は出てきてくれませんでした」とSさん。ところが夜には早くもクーが現れ、2匹にお見送りしてもらったようだ。クーは2年前のことをすぐに思い出したのだろう。
2日目、3日目もSさんの来訪を待ち受け、一緒に遊んでもらったのはガトーとクー。依然としてそうせきの姿は、影も形もない。ご飯は食べているのか、トイレは大丈夫か。旅先で心配になり、なんだか浮かない日を過ごすことになった。
Sさんにはそうせきがいそうな場所として「寝室のクローゼットの奥の2段目、寝室の押入れの下段の奥、和室の押入れの下段を探してください。黒猫なので暗がりだと見落とすこともあるので目を凝らして見てください」とLINEを送って、探してもらったりもした。
変化があったのは、4日目の夜だ。「視線を感じて振り返るとそうせき君がいました」と写真付きで送られてきた。やっと現れたか。ヤッター!
写真を見ると、そうせきはSさんから離れた場所で目をクリンクリンさせ、「誰なんだよ!」という表情で見ている。それでも出てきただけで、ひと安心。「恐怖心より好奇心の方が勝ったようです。でも、また隠れてしまいました」とSさん。
5日目の昼は、クーもそうせきも姿を見せず。クーはその時の気分だろうが、そうせきは「あんなヤツ、知らない」と見限ったのかも。
ところが、夜には再びそうせきが現れた。そこまではいいのだが、階段の上からSさんを睨みつけ、近づくと、「シャー」をしたという。エッ、「お前はもう来るな」か?
6日目。Sさんに甘えているのがガトーだけで、クーが遠くから見ている写真が送られてきた。そうせきの姿はない。シカトか。本当は寂しくて仕方がないんじゃないかと思うけど。
さて、旅も後半である。帰るまでそうせきとSさんの膠着状態が続くのか、劇的な和解へと進むのか。なんだか、どこかの戦争みたいになってきた。
そして7日目の夜。エエッ!? SさんのLINEを見てビックリだ。「シッティングが終わった後、そうせき君が出てきて遊んでくれました」だと。写真はクーとそうせきが並んでSさんを見ているものだった。そうせきの目はやっぱりクリンクリンのまん丸。猫じゃらしで遊んでいる写真はないから、撮っている余裕がなかったのかもしれない。
それでも、頑固なまでに他人を寄せ付けないそうせきの中で、何かが変わろうとしていた。
(峯田淳/コラムニスト)