悪徳商法に騙される年代で最も多いとされるのが、60代以上の高齢者だ。中でも投資などとは無縁な主婦ら女性の被害者を多数生んだのが、「ケフィア事業振興会」という詐欺グループだった。4万4000人の被害者から、総額2200億円を騙し取り、2018年9月に破産した団体だ。
なぜ被害者に女性が多かったのか。その理由は、扱う商品にあった。
ケフィア事業振興会は、1992年に創業。もともとは干し柿やメープルシロップ、ヨーグルトなどを扱う会社だったが、通販でそれらの商品を購入した顧客に対し「この柿やリンゴジュースなどのオーナーになりませんか」と、ダイレクトメールで勧誘。元本保証に加え、約半年で8%から10%の利息を払うと大々的に謳い、一口5万円で会員をかき集めたのである。
この低金利時代に半年で10%の利益など、どう考えても怪しい。だがこの会社、大口のオーナーになれば、牛肉やマンゴー、ブリなどの豪華特典がどんどんプレゼントされ、常套手段であるイベント、例えば歌舞伎座公演や世界的に有名なサーカス「シルク・ドゥ・ソレイユ」貸し切り公演などに無料招待も。さらにはチャーター機を利用して海外旅行を主催するなどして、大盤振る舞い。「ウチの会社はこれだけ儲かっているんだから大丈夫。安心してどんどん投資してください」とアピールし、投資家を繋ぎとめていたのである。
とはいえ結局は、その原資は出資者から集めた金。それを単に回しているだけの自転車操業が長続きするはずはなく、破産前年の2017年には、会員への配当や元本の支払いが遅れ、訴訟問題に発展することになった。
「消費者庁は早い段階から注意喚起し、警視庁も1年以上前から会社名を出して家宅捜査を行うなどして、悪質性を周知させてきました。にもかかわらず事業を継続させ、言葉巧みに投資家を募っていたんですからね。騒動のさなかにオーナーになり、泣き寝入りを余儀なくされた被害者は多かった」(取材した社会部記者)
中高年になれば、誰もが老後の安定のため、そして子供や孫のため、少しでも資産が増えれば…と考える。だが銀行に預けても、金利は雀の涙以下。年金はどんどん減額され、医療費の自己負担額は増え、おまけにメディアで連日「老後資金に2000万円は必要」と煽られれば、不安を掻き立てられて当たり前だ。
こうした負のトライアングルこそが、詐欺師にとって格好のターゲットであり、「だったらね、これで挽回しましょうよ」とウマイ話を持ちかけてくるのだ。この世に「ウマイ話」など絶対にない。まさにそれを証明したのが、ケフィア事件だったのである。
(丑嶋一平)