2004年の発見時に地球衝突の可能性が指摘され、世界の天文学関係者を震撼させた小惑星がある。古代エジプト神話の混乱と暗闇の神に由来して名付けられた「アポフィス」だ。
アポフィスは太陽の周りを約324日周期で公転する惑星で、その直径は約340メートル。つまり、大きさは東京タワー程度なのだが、これが地球に衝突した場合、その破壊力は500メガトンの爆弾と同等で、破壊エネルギーは広島に投下された原爆の約3万倍。当然、落下する場所によっては、地域一帯が壊滅する危険性がある、と言われてきた。
しかも発見時のシミュレーションでは、この小惑星が地球に衝突する危険があるとされるのは2029年、2036年、2068年のいずれか。当初、天文学者らはその確率を2.7%と発表した。
だが2021年に米航空宇宙局(NASA)が、より正確な軌道分析を行った結果、シミュレーションで導き出された3回を含め、当面は地球に衝突するリスクがないことが判明。正式に発表されたことで関係者一同は胸を撫で下ろした…はずだった。
ところが、だ。近年、オンライン科学誌「Planetary Science Journal」に掲載された論文に、アポフィスに別の小天体が衝突した場合、軌道が変化する可能性がごくわずかながら存在する、という最新シミュレーションが掲載され、再び天文学者の間に懸念が広がったのである。
論文の筆頭著者であるカナダのウェスタンオンタリオ大学のポール・ワイガート教授によれば、アポフィスは2021年以降、2027年まで太陽の影に入る。そのため観測が不可能になり、アポフィスと小天体が衝突したかどうかを確認することが不可能に。
仮に衝突すれば軌道が変化する可能性があるのだが、それがハッキリするのは、最初の落下が予想された2029年の2年前、つまり2027年だというのである。
NASAでは現在、「OSIRIS-REx」という探査機によるアポフィスの調査が行われているが、現在の軌道のままであれば、アポフィスは2029年4月13日、地球から約3万2000キロ以内にまで最接近するものの、衝突することはないとしている。
とはいえ、アポフィスが再び太陽の影から出てくるのは3年も先のこと。NASAの科学者たちは、アポフィスの動きから目が離せない日々が続きそうだ。
(ジョン・ドゥ)