魚住 先生はどうして物理学者になろうと思われたんですか?
橋本 僕は小さい時から数学だけは得意だったんです。高校の時に、世の中には数学者という職業があることを知りまして、数学者になろうと、京都大学の理学部に入りました。ところが、数学者は学校の試験に出るような数学の問題を作っている人ではない、ということを入学してから知ったんです。
魚住 数学者はどういうことをする人なんですか?
橋本 ×とか÷といった記号を開発している人たちです。それで僕は選択を間違えたことに気づきました。
魚住 そこから物理学に進まれたんですね。
橋本 物理学者はまず、宇宙や地球上で起こっていることを数式の形の問題にして解くことで、なぜ、そうなっているのかを解き明かします。「僕がやりたかったことはこれだ」と確信しました。
魚住 数学の特技は物理学にも生かされていますか。
橋本 はい。数学を使うのが物理、ひいては科学全般の一番大事なところです。数式は過去の物理学者が初めて解き明かして書いたものです。その数式に従って、この宇宙が動いているということを、物理学者は実感しながら毎日生活しています。そうすると、科学は先人たちが作ってきた大きな知識体系で、その中に自分も参加させてもらっているんだという、ありがたい気持ちになります。この気持ちを科学者だけでシェアしているのはもったいないと思って、本を書かせていただくようになりました。
魚住 私は文系なので、高校生の時は物理が一番苦手で、100点満点のテストで7点しか取れないこともあったんです。でも、この本を読んで、教科書に書いてあるようなことだけが物理じゃないことがわかりました。
橋本 それはうれしいです。
ゲスト:橋本幸士(はしもと・こうじ)京都大学大学院理学研究科教授。「学習物理学」領域代表。1973年生まれ、大阪育ち。専門は素粒子論(弦理論)。京都大学で理学博士を取得後、カリフォルニア大学サンタバーバラ校理論物理学研究所、東京大学、理化学研究所、大阪大学を経て現職。映画「シン・ウルトラマン」の物理学監修など、物理学とメディアや芸術を融合する試みも行っている。
聞き手:魚住りえ(うおずみ・りえ)大阪府生まれ、広島県育ち。慶應義塾大学文学部卒。1995年、日本テレビにアナウンサーとして入社。報道、バラエティー、情報番組などで幅広く活躍。04年に独立し、フリーアナウンサーとして芸能活動をスタート。30年にわたるアナウンスメント技術を生かした「魚住式スピーチメソッド」を確立し、現在はボイス・スピーチデザイナーとしても活躍中。