ロマンの宝庫、宇宙には解明されていない謎が山のようにある。ここでは宇宙誕生のカギとされる重大なものを紐解いてみたい。
宇宙の初期段階には薄いガスしかなく、そのガスが重力によって高密度になり、それが恒星や銀河を形成した…というのが、ポピュラーな宇宙誕生論とされてきた。だが近年ではウェッブ宇宙望遠鏡観測の劇的進歩により、宇宙誕生から2~3億年後には、すでにかなり発達した銀河や銀河団があったことが判明している。
ではなぜこんな短時間で、銀河が形成され、成長していったのか。その理由が大きな謎として、科学者や研究者の前に立ちはだかってきた。
その謎を解くカギは「暗黒星にある」として、米テキサス大学オースティン校の研究チームが、仮説上の天体を提唱。2007年のことである。その仮説が近年、米コルゲート大学の研究者と同研究チームにより、「現実のもの」として、大きく前進することになったのである。宇宙物理学に詳しいサイエンスジャーナリストが語る。
「仮説として提唱された暗黒星は、直径が約30億キロメートル。これは太陽の直径のおよそ2000倍で、その大部分が巨大な水素とヘリウムの雲で形成されている。質量は大きなもので、太陽の100万倍以上。当初の仮説は、宇宙には電磁波では観測できない『暗い物質』があり、これが崩壊することにより、暗黒星が形成されたのではないか、というものでした。研究チームは、ウェッブ宇宙望遠鏡で観測された初期宇宙に存在するとみられる数百の銀河候補天体の中で、特に詳細な観測データが揃う4つの天体を分析。すると4つのうち3つの天体が、宇宙誕生から3億2000万年から4億年の時代に存在していたことが明らかになったのです」
しかもそのうちひとつの天体の表面温度は約1万7000度と、仮説として立てられた「暗黒星」で予想した観測データと一致。研究チームは「3つの天体は銀河ではなく暗黒星だと考えて間違いない」との自信を深めた。サイエンスジャーナリストが続ける。
「暗黒星には初期の銀河では見られないスペクトル線 (電磁波の波長ごとの強さを示すスペクトルに現れる吸収線や輝線) が現れると考えられ、今後の観測でそのようなデータが得られれば、暗黒星が実在する可能性ががぜん高まります。同時にこれまで謎に包まれている暗黒物質の正体に迫ることにもなるため、世界中の研究者がその観測の行方を注視しているのです」
現段階で「暗黒星」は仮説上の天体なので、これが本当に実在するのか、あるいは宇宙誕生の初期段階に見られる銀河なのかは、今後の観測の推移を見るしかない。とはいえ、銀河や銀河団の謎の解明にまた一歩近づいたことは間違いない。
(ジョン・ドゥ)