「103万円の壁」論争や兵庫県知事選の騒動に隠れて、厚生労働省がとんでもない「法改正」をしていたことが、11月末発表の「官報」(号外277号)で明らかになっている。なんと「タダの風邪」を梅毒や後天性免疫不全症候群(HIV)、クロイツフェルトヤコブ病、新型コロナと同じ、感染症法の「第5類」に指定したのだ。
嘘のニュースを報じるパロディサイト「虚構新聞」か、あるいはフェイクニュースのネタかと疑ったが、今年8月2日、岸田文雄政権下で武見敬三厚労相が「第5類の分類を省令改正する」方針を明らかにしていた。
新型コロナを第5類にする時は大騒ぎだったのに、福岡資麿厚労相が国会での審議もせず、11月29日に大臣の行政権限行使で省令改正。「風邪」を第5類感染症にねじ込んでしまった。
この暴挙に、厚労省が募集したパブリックコメントには、国内の医師らから「現場が混乱する」「医師の負担が増える」と3万件以上の意見が寄せられた。
今回、5類感染症に指定されたのは急性呼吸器感染症(鼻炎、副鼻腔炎、中耳炎、咽頭炎、喉頭炎、気管支炎、細気管支炎、肺炎の総称)。鼻水が出る、喉の痛みまで第5類に指定することで、医療機関の報告業務は膨大に増える。それらの人件費や事務経費の試算など、武見前大臣、福岡大臣と厚労省は行っていない。またこの省令改正について、林芳正官房長官は、記者会見で説明もしていない。
省令改正による予算額は途方もないが、参考までに昨年度、岸田内閣は令和5年度補正予算案で感染症対策事業費に122億円を計上、都道府県でも1億円から4000万円規模の補正予算を組んだ。「103万円の壁」の引き上げ分、税収が減るとして、自民党や知事会が減税に反対する一方で、国民に隠れてコッソリ「風邪を5類にして税金を無駄遣いする」というのだから、岸田増税メガネに続いて石破政権もどこまで納税者をナメているのか。
世界に類を見ないトンデモ省令について、武見前大臣は8月の会見で、
「ワクチンが有効な感染症である場合には、ワクチン開発も検討されます」
と意義を強調していた。
これでは政治資金規制法再改正後にも自民党議員が製薬団体や日本医師会から「裏金」をもらうための抜け道作りでは、と疑いたくもなる。
(那須優子/医療ジャーナリスト)