先の衆院選で少数与党になったはずの石破茂自公政権が12月20日、来年度の税制大綱に「103万円の壁を123万円にしか引き上げない」と盛り込んだ。12月11日に自公と国民民主の3党幹事長で交わした所得税控除額を178万円を目標に引き上げる「103万円の壁の合意書」(写真/玉木雄一郎氏のXより)は何だったのか。
自公政権がなぜ突如、国民民主党のハシゴを外したのか。日本維新の会の元代表・橋下徹氏、自民党の小野寺五典政調会長、国民民主党・玉木雄一郎代表(役職停止中)の公式Xを辿っていくと、その舞台裏がよくわかる。
とりわけ橋下氏は、自公国民の3党が「103万円の壁を178万円まで引き上げる」ことを目指して合意した12月11日以降、次のような投稿を繰り返していた。
〈国民民主がいくら頑張っても、維新が教育無償化を実現して予算に賛成すれば国民民主の主張は終わり。国民民主は維新の主張にもっと配慮せなあかん〉
〈維新は良い子ちゃんぶらなくていい。維新の出方次第では国民民主の主張を潰すことができることを国民民主に認識させるべき〉
〈自民との協議次第では国民民主の主張を全て葬り去ることができることを、維新は国民民主に認識させるべきだ〉
これら橋下発言から、衆議院で立憲民主党に次ぐ野党第2党の日本維新の会が自公政権に対して「予算案に賛成する」と秋波を送り、自公政権は国民民主党との「178万円に引き上げ」を反故にした疑惑が浮上する。
橋下発言と呼応するかのように、小野寺氏や立憲民主党の亀井亜紀子氏も「学生に103万円もアルバイトをさせるとは何事か」と103万円の所得税控除額引き上げを、教育無償化問題にすげ替え始めている。
学費の捻出が困難な学生を救済したいならば、防衛大学校と防衛医科大学看護学科がある。学費は無償、卒業後は国家公務員の地位と看護師資格を得られる上に、ボーナスを含めて年俸200万円(前年度実績)が支給される。防衛大臣経験者の石破総理や小野寺氏は防衛大学校や防衛医科大の定員と予算を増やし、日本国内で不法就労する外国人留学生を抱える私立大学、私立高校をどうにかするのが責務ではないのか。
さらに自民党と公明党は税制大綱を改悪した12月20日、日本維新の会との3党で「教育分野をテーマにした専門チームによる初会合」を開き、「奨学金バラマキ」の検討を始めた。自分の奨学金返済で生活が苦しい20代から40代のサラリーマンに「奨学金」増税を課せば、結婚・出産どころか、今の生活が破綻する。そのために現在の最低賃金である年収178万円まで「所得税を課さない」という「103万円の壁」論争は、どこにいってしまったのか。
この自公、維新が暴走した結果、何が起きるか。年末年始の食材買い出しで大忙しのスーパーマーケットや介護施設では、すでに「103万円の壁を超えるのでこれ以上、働けない」とパート従業員、アルバイト従業員が休業している。
さらに混乱が起きるのが保育園や幼稚園、学童保育や病院、介護施設だ。社会保険料負担の年収基準となる「106万円の壁」廃止を聞きつけたパート従業員、アルバイト従業員が「103万円の壁が上がらず、社会保険料まで徴収されたら手取りが激減する。社会保険料負担が義務付けられる週20時間勤務はできない」と、来年1月以降の勤務時間短縮の申し出が相次ぐことに。「現場が立ち行かない」「職員が確保できない」と怨嗟の声が出始めているのだ。
「103万円の壁」「106万円の壁」の影響を受けるパート、アルバイト従業員は200万人。その大半は、手取り収入が減るくらいなら20時間労働を放棄することになるだろう。
しかも筆者に怨嗟の声をぶつけてきたのは、自民党や公明党を支持する学校法人、医療法人、社会福祉法人の経営者だ。国民の生存権と支持者の信頼を踏みにじり、政局と財務省ばかりを見ている自民党、公明党、そして維新は、2025年の参院選でどんな地獄を見るのだろうか。
(那須優子)