皆さんに、今のうちに名前を覚えておいてほしい若虎がいます。19歳の横田慎太郎です。鹿児島実業から13年ドラフト2位で入団したプロ2年目。身長186センチで左打ちの大型外野手です。
まだまだ打撃は粗削りですが、飛距離はチームでもトップクラスで、足も速く、肩の強さもあります。タイプ的にはオリックス・糸井ですが、もっといい意味で泥臭い感じ。決してスマートではありませんが、武骨で野性味にあふれていて、昔の野球選手の匂いがします。彼なら将来的にはトリプルスリー(打率3割、30本塁打、30盗塁)も夢ではありません。順調に育てば、近い将来、チームを背負って立てる存在だと見込んでいます。
私は現在、一軍の沖縄・宜野座キャンプでの指導を終え、11日の第3クールから高知・安芸での二軍キャンプに帯同中です。グラウンドでの練習だけでなく、チーム宿舎に帰っても、横田をマンツーマンで鍛えています。膝、腰、肩を地面と平行に回すレベルスイングを身につけさせるため、素振り、スポンジボール打ちの反復練習をひたすら繰り返しています。性格的にも純粋で、天然な面のあるナイスガイです。何とか、うまく一流へのレールに乗るよう手助けしたいと思っています。
このまま順調に調整を続ければ、一軍のオープン戦でもチャンスをもらえるはずです。そこで結果を出せば一気にブレイクする可能性もありますが、まだ思うような結果を残せない確率のほうが高いでしょう。でも、それでいいのです。肝心なのは、数多くの失敗を財産とすることです。一軍でレギュラーを奪うためには、今の自分に何が足りないかを知ることが大切。本当の勝負はそこから始まるのです。
中には「なぜ特定の選手を熱心に教えるのか」と思う人もいるでしょう。でも、プロ野球というのは不公平な世界です。今も昔も、コーチが全選手を完全に平等に扱うなんてことは、ありえません。アマチュアの世界ではないのです。選手は、こちらに「心血を注ぎたい」と思わせる空気、存在感、メッセージを発しないといけません。二軍でいちばんそう感じさせてくれるのが、今は横田ということなのです。
不平不満の感情はグラウンドにぶつければいいのです。高卒4年目の一二三慎太も、悔しい思いをしている選手です。同期で仲のいい中谷は宜野座で奮闘中です。ルーキーで一軍キャンプに参加している江越も同学年で、二軍に取り残された一二三には相当な危機感があるはずです。昨季までとは目の色が違います。成長するうえで、この気持ちが何より大事です。仲よしクラブではチームは強くなりません。二軍の段階から、人を蹴落としてでもというハングリーな気持ちで、競争を勝ち抜かないといけないのです。今春のキャンプは一軍に多くの若手が抜擢されました。「オレも負けられない」と、二軍の選手にも好影響を与えています。関本や藤井の安芸スタートのベテラン組も同じような気持ちでしょう。
和田監督にとって難しいのはこれから。実戦の中で選手たちに優劣をつけていく必要があるからです。誰もが納得いく形などありません。不満のパワーが、うまく、グラウンドでの結果につながるような形に持っていきたいものです。
◆プロフィール 掛布雅之(かけふ・まさゆき) 55年生まれ。73年に阪神入団、88年に引退。13年10月、阪神GM付育成&打撃コーディネーター(DC)に就任。著書に「新・ミスタータイガースの作り方」(徳間書店)、「若虎よ! 」(角川書店)など。