阪神の開幕二塁手はアクシデントがないかぎり、上本に決まりです。キャンプ終盤に和田監督が西岡に三塁コンバートを伝え、オープン戦から「二塁・上本」、「三塁・西岡」の布陣を敷いています。西岡はキャンプ前から二塁に固執する考えを公言していただけに決着のしかたしだいでは火種を残しかねない問題でした。監督との話し合いの末、納得して三塁に回るようで、まずは一安心です。
2人のバトルがオープン戦終盤まで続くようだと、互いに開幕までに疲れ果ててしまう危険性もありました。オープン戦というのは調整の舞台でもありますから、常に結果だけを求められると、その先の143試合の長丁場に影響します。ですから、ある程度早い段階で答えを出せたのは、よかったのではないでしょうか。しかし、その「準備」は本来キャンプ序盤から始めていたほうがよかったのも確かです。
西岡が三塁の守備練習を行ったのはキャンプ最終日が初めてでした。二塁を争わせるにせよ、上本、西岡ともに三塁の練習をさせても弊害を及ぼさなかったはずです。そうなれば、もともと三塁を争っていた今成、新井も含めて、より相乗効果が期待できる競争となったのではないでしょうか。今成はキャンプ終盤に右脇腹の張りを訴えてペースダウンしましたが、安定感のある打撃と守備は魅力です。新井の長打力も捨てがたく、2人の存在が置き去りにされた感じとなったことは残念でした。
また、「三塁・西岡」にはまだ不安が残ります。体重を例年よりかなりしぼってキャンプインしましたが、本来のスピード、切れは、まだ本人のイメージどおりに戻っていません。それでも打撃に関しては開幕までにきっちり仕上げてくるでしょう。問題は守備です。実際にオープン戦でも、本職の三塁手なら難なくさばくゴロをエラーする場面がありました。経験者の立場から言わせてもらうと、三塁の守備は周りが思うほど簡単ではないのです。
最も大事なポイントは1歩目のスタートです。二遊間の守備位置だと、投球のコース、バットの角度がよく見えるのですが、横からではわかりません。いきなり強烈に速い球が飛んでくる恐怖感もあります。二遊間なら多少1歩目がずれても距離がある分、修正もききます。ところが三塁は打者との距離が近いため、1歩目が遅れると、バウンドを合わせられないのです。リズムよく、流れの中でボールをさばけないと、送球ミスにもつながります。
西岡はオープン戦で、すぐにファウルと判断できる三塁線の打球に飛び込む場面がありました。ムダなダイブも1歩目が出せていない証拠です。開幕までまだ少し時間がありますから、できるかぎり守備機会を作って、三塁をこなす準備をしなければいけません。ノックの球ではなく、我々の世界で「実弾」と呼ぶ、打者の打った生きた球を数多く捕ることが必要です。
一方、二塁争いを制した上本はオープン戦でも絶好調です。ですが、キャンプ序盤から西岡を意識して、相当ハイペースで調整したはずです。どこかで意識的にペースダウンしないと長丁場の戦いはもちません。ここからは正二塁手として余裕を持って開幕に臨んでほしいと思います。虎の「二塁問題」の本当の答えは、シーズンが終わってみないとわからないのです。
◆プロフィール 掛布雅之(かけふ・まさゆき) 55年生まれ。73年に阪神入団、88年に引退。13年10月、阪神GM付育成&打撃コーディネーター(DC)に就任。著書に「新・ミスタータイガースの作り方」(徳間書店)、「若虎よ!」(角川書店)など。