「プリズン・ペット・パートナーシップ」という言葉をご存じだろうか。これは「プリズン」、つまり刑務所の中で受刑者が動物の介護を通し、更生の道を見つけてくというプログラムを指す。
現在、アメリカではワシントン州をはじめ、インディアナ州、ルイジアナ州など多くの刑務所ほか矯正施設で、このプログラムが実施されている。
その先駆けとなったのは、1982年のワシントン州の女性刑務所。当初は犬が中心であり、刑務所内において受刑者が介助犬の訓練を行ったり、保護犬を家庭に戻すためのしつけをしていたとされる。
しかし近年になり、対象が保護犬から保護猫に移行。保護猫に里親が見つかり、家庭猫として巣立っていくことで、殺処分減少の一助を担っているのだ。
受刑者が世話をする猫は施設によって多種多様で、成猫のみが対象という施設もあれば、子猫中心の施設も。ある女子刑務所では、傷を負った猫や妊娠中の母猫のサポートに力を入れているとされる。
「プリズン・ペット・パートナーシップ」では基本、受刑者1人と1匹の保護猫がペアとなり、刑務所内でともに暮らすプログラムを実施。とはいえ、受刑者なら誰にでも猫が与えられるわけではない。
まずは試験的にペアとなって観察されるが、責任感と愛情を持ち、ルールに従って猫の世話をできなければ、飼う資格は与えられない。1年経ってもプログラム参加が許されないケースもあるのだ。
対象的に、それまで手が付けられないほど狂暴だった受刑者が、猫と生活をともにすることで精神面の安定を取り戻し、他者を思いやる気持ちが生まれ、自分が飼い主としてふさわしい人間になろうと努力する…そんなことも少なくないそうである。在米ジャーナリストが言う。
「刑務所に来る猫たちは、過去に飼い主から虐待され捨てられたりして人間不信になっていることが多い。受刑者とペアを組むことで初めて、人間の愛情に触れるのです。つまり、家庭環境などから道を踏み外してしまった受刑者と、捨てられて殺処分寸前だった猫がこのプログラムで出会い、お互いがもう一度、生きる喜びを味わうことができる。終身刑を言い渡され、生きる希望をなくしていた受刑者の中には、猫との出会いで人間性がガラリと変わったケースがあると聞いています」
心を閉ざしてしまった猫の心を再び開かせるのは容易ではないが、受刑者は毎日、餌をやりやトイレ掃除をしながら、お互いの距離を縮めているのである。
(灯倫太郎)