2010年7月、麻薬の密輸事件に関与し、中国広東省の珠海で拘束されたヤクザがいる。金の力で死刑判決は免れたが、懲役15年の判決を受けて、劣悪な環境下での拘禁生活を送ることとなった。前編から続く後編の舞台は、およそ9年を過ごした東莞刑務所。彼が見た「中国監獄」の地獄絵図とは─。
–
覚醒剤の密輸に絡んで一緒に拘束された日本人受刑者の死刑が執行されたのが15年6月26日。それと入れ代わる形で、ようやく東莞刑務所(広東省)に移送され、人並みの生活が送れるようになった。皮肉な話ですよ。
–
神奈川県の組織に身を置くマツダトミオ氏(仮名)=50代=が刑務所に入ったのは、逮捕から約5年後、2015年のことだった。
–
刑務所は珠海の看守所から車で1時間ほどの距離で、夏は相変わらず蒸し暑い。しかし、鉄の檻で雑魚寝していたことを考えれば、まだマシ。雑居房には2段ベッドが7つ置かれ、テレビも設置されていました。
私のような外国人受刑者は6区に収容されます。そこには400人がいて、外国人は200人。その約半数をベトナム人が占めていました。ベトナム人とかアフリカ人には適当にウソをついて、「オヤブン」「アニキ」と呼ばせていたのが面白かったですね。 日本人は私の他に3人いて、2人はシャブ絡み。もう1人は中国を拠点にオレオレ詐欺をしていて、仲間割れで日本人を殺害したという30代の男。彼は無期懲役で、今も刑務所にいると思いますよ。
–
看守所ではトイレの水を生活用水にしていたが、刑務所には洗面所があり、タバコも吸えた。しかし、食事情はまったく違った。
–
お粥や饅頭などの主食は基本的に食べ放題。副菜がつくものの、なぜか野菜が1品だけ。しかもカボチャならカボチャ、大根なら大根、キュウリならキュウリが1週間ずっと続くんです。食中毒対策で〝煮沸消毒〟しただけだから何の味もしない。きっと近くの農家で買い叩いてきたんでしょうね。荷台にキャベツを山ほど積んだトラックが刑務所に入るのを見た時はゲンナリしましたよ。
基本のメニューがその調子だから、自費で肉や魚、ソーセージやら卵やら食料を購入しなければいけません。金がなければ栄養失調で死んでしまいますよ。
朝はたいていラーメン。いや、ラーメンなんてシロモノではなく、まったく味がないお湯に浸かった麺ですね。これに自分で購入した醤油やラー油、ザーサイなどを入れて、油そば風とか焼きそば風にして、どうにか食べることができた。アフリカとかパキスタンの連中は金がないから味なしの麺をすすってばかり。そばで見ていてかわいそうでしたね。