言うまでもなく、力士の仕事は相撲を取ることだ。なので、インタビューにわずらわしさを感じることもあるだろう。ただ、この世界でメシを食うプロである以上、マスコミへの対応も言ってみれば、仕事の一部。ならば無難にこなす技を身に付けたいところだ。
ところが報道陣に囲まれた苛立ちもあり、つい出た軽口が角界を揺るがす大騒動に発展してしまったことがある。小結・阿炎(当時)による、2020年2月の「大問題発言」だった。
阿炎(錣山部屋)が、荒汐部屋の若元春(当時は十両)とともに前年の九州場所前、遊びの中で他の部屋に所属する十両力士の手足を粘着テープで縛るなどした動画を、自身のSNSに投稿。この動画が「暴力を連想させる」として批判を受けて、大炎上。師匠が日本相撲協会への謝罪に追い込まれ、阿炎自身も厳重注意を受けて反省文を提出することになった。
それまでもイジメや暴行事件で再三、世論の批判を浴びてきた角界はこの案件を受けて、全協会員の個人的なSNS使用禁止を決定。2020年1月4日、東京・両国国技館で全協会員を対象にした研修会が行われ、SNSの危険性に関する講義が行われた。
「不慣れな研修と稽古疲れからついウトウト、という力士もいたようですが、若者頭や世話人らが会場を回り、肩を叩いて起こしてたいたようです」(スポーツ紙記者)
むろん、この研修会には当事者である阿炎も参加。ところが会場を引き揚げる際、詰めかけた報道陣の取材に対し、あろうことか、こう言い放ったのである。
「(内容については緘口令が敷かれているため)話したらいけないと言われているので…。研修の感想? 寝ていたので覚えていません」
そもそもこの研修会が開かれるきっかけを作った張本人が誰あろう、この阿炎である。にもかかわらず「寝ていたので覚えていない」とは何事なのか。
この発言を聞いた芝田山部長は、怒り心頭で言った。
「1人のこういうことが(協会員)900人に迷惑をかけると言ってるハナからそれじゃあ…。何を考えているのか、理解できない。ちょっと情けないね」
翌日さっそく親方と本人を呼びつけて事情聴取となったわけだが、芝田山部長いわく、
「あまりにも(報道陣が)ずっとついていったものだから、思わず(言ってしまった)という話もあったみたい」
阿炎自身は猛省しており、師匠からは「大変申し訳ない」と謝罪があったという。
だが、いかに報道陣が煩わしかったとはいえ、あまりにも軽率な発言であることは否めない。芝田山部長も、
「本人の口から言ってしまったものは、消せない。こういった子供じみた発言が記事になるとこと自体、不名誉なこと。厳重注意と教育が必要」
そう語っていたのだが、やはり本人の資質の問題でもあるのか…。
(山川敦司)