中居正広問題に揺れるフジテレビを抑えて、1月20日のXトレンド1位になったのは「たかまつなな炎上」だった。厚労省社会保障審議会 年金部会の委員である吉本興業所属の芸人だが、現役世代の社会保険料軽減を訴える日本維新の会・音喜多駿元衆院議員に対し「年金制度は破綻しない」「現役世代が支払う社会保険料を相当な規模で高齢者の年金の給付に回す必要はある」と反論して、現役世代の怒りを買ったのだ。炎上の理由は、年金部会の委員を務めていながら、日本の年金制度を理解していないからだった。
1960年の国民年金保険料は、月額わずか150円。貨幣価値や物価情勢があるので単純比較はできないが、2025年の国民年金保険料は、年収400万円世帯で200倍超の3万3539円。保険料が爆上がりしたのは、日本の年金制度が「積立方式」ではなく老年世代が受け取る年金支給額総額を、現役世代が支払う「賦課方式」だからだ。
少子高齢化で日本の老年人口は増え続け、それに伴い、年金支給総額も増え続ける。一方で、年金保険料を支払う現役世代の人口が減り続けている。現役世代一人あたりの負担は飛躍的に増え、ますます子供を産まなくなる悪循環。2025年にはとうとう、65歳以上の老人が国民の30%を超える超高齢化社会に突入した。
年金支給開始年齢の65歳以上が3500万人なのに対し、昨年の新生児数は60万人。15歳から49歳の女性の年齢別出生率を合計した特殊合計出生率は1.15を下回る見込みで、年金制度で想定されている特殊合計出生率1.26を大きく下回っている。この時点で年金制度の綻びは明らかだ。
特に新型コロナ禍の2021年に日本の特殊合計出生率は0.81まで落ち込み、2019年生まれが社会人になるまで、賦課方式の年金制度はもたない。毎月2万円の年金保険料を払っている世代が老人になった頃には、元金が戻ってくる保証はない。だから金融庁は、特殊合計出生率が0.81に落ち込んだ2019年に「老後資金として2000万円の蓄えは必要」と警鐘を鳴らしたのだ。
では日本以外の少子高齢化に悩める国は、どうしているのか。ドイツやフランスなどOECD加盟国は「要介護老人の入院禁止」「要介護老人の延命中止」によって社会保障を健康な高齢者に絞り込み、年金・社会保険料が上がるのを食い止めている。日本も「先進国並み」の社会保障制度改革は待ったなしなのだが、若者の代表でインフルエンサーを自称するたかまつ氏がなぜ、年金部会で社会保障制度改革を提案しないのかは謎だ。
(那須優子/医療ジャーナリスト)