終了したのは午前2時23分。10時間23分に及ぶフジテレビの「やり直しロング会見」で盛んに繰り返された言葉がある。それが「個人を特定するような質問はお控え下さい」と「プライバシー」、そして「少人数」だ。
これは港浩一社長が主に発言したもの。2023年8月、被害者のX子さんが中居正広とトラブルがあったことを聞いた際、港社長は彼女の心身の健康のためにコンプライアンス室を通さず、少人数で問題を共有していたと明かした。
表沙汰にはしたくないというX子さんの強い意向に沿ったものだといい、それに関連して中居の担当番組を継続するかについても、少人数で話し合った。つまりはトップダウンで物事が動いていた、ということになる。
テレビ局においては、企画の最終決定は上層部の一存で行われるものではあるが、フジテレビはそれが顕著なようだ。内情を知る放送作家が語る。
「特に人気番組を担当しているエースクリエイターは上からの信頼が厚いため、広く制作会社や社員から募る企画募集とは別に、クローズドで企画を持ち込むことがあります。実際にそれで決まることも多いですね。フジテレビは門戸を広げる機会が他局より少なく、1人の社員の企画を数人の幹部が一本釣りすることが多いのです。つまり比較検討、精査することがないため、その番組企画は幹が弱いものになりがちに」
そうした閉鎖された空間で選ばれる「弊害」に見舞われた企画がある。
「それが『孤独のグルメ』です。松重豊演じる主人公・井之頭五郎が仕事の合間にふらりと立ち寄った飲食店でひとり食事をする様子を描いたおなじみのドラマですが、この企画は当初、共同テレビのグループ会社であるフジテレビへ持ち込まれました。ところが幹部に一蹴され、仕方なくテレビ東京へ持ち込んだという経緯があります。それが今や映画化され、大ヒットですから」
もし仮に今後、フジテレビが再生の道を辿ることができたとしても、番組のクオリティーが上がらなければ視聴率には結びつかず、収益に響くだろう。限られた場で企画選びという慣習が続くようであれば、外部の放送作家やデイレクターのモチベーションは上がらず、フジテレビにいい企画を持ち込もう、という気持ちすらなれない。今回の問題は、フジテレビ没落の序章になる危険性を大いに孕んでいるといえる。
(佐藤亨)