最大派閥「安倍派」(清和政策研究会)は政治資金パーティーをめぐる裏金事件で、総額約6億7600万円の寄付を記載していなかったと公表。1月31日には総務省に訂正を届け出て、国民に政治不信を招いたことを謝罪したが、政治と金の話にまつわる疑惑は枚挙にいとまがない。だが、疑惑が追及される中、当事者である現役閣僚が自ら命を絶つという最悪な結末で幕を下ろすことになったのが、2007年5月の松岡利勝農水相の「政治とカネ」疑惑だったのではないだろうか。
松岡氏は1969年に農林省入り。1990年2月の総選挙で衆院議員に初当選後、農水政務次官や衆院農水委員長、農水副大臣など、一貫して農林水産畑を歩んできた。そんな松岡氏が第一次安倍政権で農水相に就任したのは、2006年9月だった。
しかし就任当初から、政治資金収支報告書の記載漏れや、談合における金銭問題が発覚。林道の官製談合問題で摘発された「緑資源機構」の受注業者から、多額の政治献金を受けていたことが明らかになり、いわゆる族議員と中央省庁ならびに外郭団体、公益法人、関連企業との癒着構造が改めて国民に知られることになったのである。
野党のみならず与党議員からも「いくらなんでもそれはやりすぎだろ」と半ば呆れた声が上がったのが、資金管理団体の事務所費・光熱水費問題だった。
というのも、松岡氏の資金管理団体の事務所は、電気代も水道代もかからない議員会館に置かれた一カ所だけ。にもかかわらず、政治資金収支報告書には2001年から2005年までの5年間の光熱水費をなんと、約2880万円も計上していたのだから、驚くほかなかった。
2007年3月5日、参院予算委員会で光熱水費について野党からの質問を受けた松岡氏は、次のような苦しい弁明を展開する。
「私のところは水道に今、ナントカ還元水といったものを付けている。光熱費につきましても、暖房なりなんなりが含まれている」
その後も野党から幾度となく同様の追及を受けるも、「法に基づいて適正に処理している」と繰り返すばかり。さすがに与党内からも「説明になっていない」との声が噴出し、自民党の笹川堯党紀委員長からは、
「タダのところに(経費が)かかっているのは、誰が見たっておかしい。私も毎日、還元水を飲んでいるが、1台20万円だ。一度付けると5年や6年はもつ」
と指摘される始末だった。
さらに、家賃がかからない議員会館に事務所を置きながら、政治資金収支報告書に年間約2500万円から3300万円を事務所費として支出していたことも発覚し、もはやコトは誰の目にも言い逃れができない事態に発展していた。
そんな最中、衝撃的な出来事が起こった。5月28日、松岡氏が真相をいっさい語らぬまま、自ら命を絶ったのである。これにより、松岡氏めぐる「政治とカネ」の問題は闇に消えていった。
(山川敦司)