2021年には過剰摂取による死者が7万人を超え、以降は毎年のように「10万人超え」というとんでもないペースで、その数が激増。これはアメリカ国内での合成麻薬「フェンタニル」による死亡事案である。そのせいで、カリフォルニア州の都市部では数多くの「ゾンビ・タウン」が出現。昨年の大統領選挙戦ではトランプ氏が「麻薬の売人に対して強力な死刑制度を導入する」と宣言したことから、今後の成り行きが大いに気になるところだ。
まさかアメリカの未来を予想していたわけではないだろうが、32年前の1993年7月7日、街頭演説で「アメリカは麻薬患者、覚醒剤患者が野放し」と言い放ったのは、外相だった渡辺美智雄氏である。歯に衣着せぬ栃木弁で数々の問題発言をブチかましてきた人物だが、この日の演説で「安定した経済は安定した政治の上で成り立つ」とした渡辺氏は、こう続けた。
「アメリカはピストルを取り締まる法律を作ろうとしても、業界の圧力が強いから議会を通らない。麻薬患者、覚醒剤患者も野放しだ。麻薬患者の注射からエイズが広がった。エイズがアメリカ並みになったら、国がおかしくなる」
いかに1990年代とはいえ、政治家の発言としては「不適切にもほどがある!」だろう。
だが、この程度はまだほんの序の口。政調会長時代の1988年2月には大阪での街頭演説で、こう言っている
「中国には資金はあるが、残念だが技術がない。山西省あたりには、まだ穴を掘ってその中に住んでいる人がいっぱいいる。これは政治がよくないからだ」
これには中国系有力紙から大ブーイングを受けることに。しかし、そんな批判などどこ吹く風。極め付きは1988年7月に長野県軽井沢町で行われた自民党のセミナーでの発言だ。講演に登壇した渡辺氏の口から、驚くべき言葉が飛び出したのである。
「日本人は破産というと夜逃げとか一家心中を考えるが、クレジットカードが盛んなアメリカの連中は黒人だとかがいっぱいいて『うちはもう破産だ。明日からもう何も払わなくていい』とそれだけ。ケロケロケロ、アッケラカンのカーだよ」
いやいや、飲み屋で友人と話しているのなら別だが、これは公の場でのこと。与野党のみならず、アメリカからも批判を受けて発言を撤回。会見で平謝りするも、アメリカの怒りは収まらず、日本製品の不買運動が広がるなど、日米関係に大きな波紋を広げることになったのである。
(山川敦司)