人気時代劇「遠山の金さん」が白州で罪人に放つ「江戸市中引き回しの上、打ち首獄門! えぇ~い、引っ立て~!」の名ゼリフに「いよっ、金さん、日本一!」なんて合いの手がかかったのは、四半世紀前のことだった。
この人が時代劇のファンだったかどうかは知らないが、あろうことか、記者会見で現職の大臣として「打ち首」と発言し、報道陣を仰天させた…といえば、鴻池祥肇防災担当相(政府の青少年育成推進本部副本部長)である。
2003年7月、長崎市で幼児誘拐殺人事件が発生した。逮捕されたのが12歳の少年だったことで、日本列島には大きな衝撃が走った。7月11日、閣僚懇談会を開いた政府は、少年犯罪対策の検討を各閣僚に指示したが、閣僚後の会見で鴻池氏は突然、こうブチかましたのである。
「少年犯罪は親の責任だ。マスコミの報道の仕方にも問題がある。嘆き悲しんでいる親ばかりを映し、犯罪者の親は映していない。引きずり出すべきだ。(中略)こういった事件をきっかけに、こんなことをしたらえらいことになると自覚させるため、罪を犯した子供の親は全部、引きずり出すべきだな。(中略)親は市中引き回しの上、打ち首にすればいい。そうすれば親も子供も今後、気を付ける」
1940年生まれの鴻池氏は、当時63歳。江戸時代ではあるまいし、これはあまりにも不適切だった。国政の中枢で、しかも青少年問題を担当する立場にある大臣。野党からは即刻、批判が噴出する。そして当該事件を担当する長崎県弁護士会からは、次のような厳重な抗議文が届いた。
「担当大臣のかくのごとき時代錯誤の発言は、国民の、少年やその親に対する憎悪感情をいたずらに増幅させるのみであり、このたびの事件の本質のすり替えにもなりかねない。国政の中枢にある、しかも青少年問題を担当する大臣のものとは思えない非常識な発言であり、長崎県弁護士会はこの発言に対し、厳重に抗議するものである」
しかし「出る杭は打たれるが、出すぎた杭は打たれない」といわれるように、小泉政権・与党内からは擁護とも取れる声が上がり、世論を巻き込んでの賛否両論、侃々諤々の議論に発展することに。
そうした背景があってか、内閣府で囲み取材に応じた鴻池氏は全く悪びれる様子がなく、後日の会見では、
「言葉のアヤ。たとえ話です」
そう平然と言ってのけた。再び報道陣はアキレ返ることになったのである。
(山川敦司)