A級棋士10人が意地とプライドをかけて戦う、通称「将棋界のいちばん長い日」が幕を閉じた。
ここまで6勝2敗の佐藤天彦九段は、佐々木勇気八段に勝利すれば藤井聡太名人への挑戦が決定。最近よく採用している「三間飛車」で37手まで互角の勝負を展開したが、中盤から劣勢に回り、127手で投了。明らかに詰みが見えていたにもかかわらず、なかなか投了しなかったのは、それだけこの一局に懸ける思いが強かったからだろう。
名人挑戦の行方は、ともに5勝3敗で追う永瀬拓矢九段が増田康宏八段に勝利したため、佐藤九段と永瀬九段が6勝3敗で並び、プレーオフが行われることになった。現地の大盤解説会には藤井聡太名人が登場し、指し手を解説したが、内心、誰が自分への挑戦者になるのか、気になっていたのではないか。
では、佐藤九段と永瀬九段のどちらが、藤井名人にとって脅威となるのか。藤井名人に対する通算成績は、佐藤九段が1勝7敗、永瀬九段が7勝19敗で、どちらも大きく負け越しているが、勝率2割6分9厘の永瀬九段の方がやや有利か。
佐藤九段と永瀬九段は、2022年の第81期A級順位戦4回戦で、佐藤九段が途中からマスクを1時間以上にわたって外し、「マスク着用義務違反」で反則負けしている。佐藤九段は「注意を受けていない」と反論したが判定は覆らず、しこりが残る対局になった。
因縁の対局以降の成績は、佐藤九段が1勝3敗と永瀬九段を苦手にしている。もっとも、もともとの実力はほぼ互角だけに、どちらが勝利してもおかしくはない。
プレーオフ対局は3月4日に、東京の将棋会館で行われる。
(ケン高田)