前人未到の「八冠」への挑戦が黒星スタートとなった、藤井聡太七冠。8月31日の王座戦第1局は中盤まで藤井七冠優位とみられていたが、永瀬拓矢王座は待ち時間10分を切ったのちに反撃。徐々に増やしていった持ち駒を終盤は惜しげもなく使い、互いに待ち時間を使い切る。そして永瀬王座が1分将棋を1時間続けた、150手の長丁場を制した。
今年に入り「先手では勝率10割、12連勝中」だった藤井七冠だが、昼食休憩後に2分遅れ、さらに終盤は瞬きが増えるなど、らしくない場面が目立つ。「王位」タイトル防衛の、連戦の疲れが垣間見えた。
今年2月の第81期順位戦に続いて、永瀬王座に連敗。藤井七冠がプロ入りして以降、差し手を研究し合うパートナーだけあって、得意の戦型「角換わり」も研究されていた。
珍しく昼食にスイーツを注文することもなく、夕食はおにぎり2個と椀もの、パパイヤと軽めに済ませた藤井七冠に対し、永瀬王座は昼食に、対局の舞台となった「元湯 陣屋」(神奈川県秦野市)伝説の勝負メシ、ビーフ&伊勢海老シーフードカレーとショートケーキ、シャインマスカット大福を注文。夕食にも昼と同じボリューミーなビーフ&伊勢海老シーフードカレーを「お代わり」した。
伝説の「陣屋カレー」は、玉ねぎ100個を大鍋でじっくり煮詰めたルーに、伊勢海老がまるまる一尾。じっくり煮込んだランプ肉がゴロリと入った、ビーフのルーが別盛りとなる。さらに老舗旅館の看板である会席料理の小鉢とサラダ、カレーによく合う温泉卵がついてくる。米長邦雄永世棋聖のリクエストで作られ、この日の対局を見守った日本将棋連盟の羽生善治会長にも愛される「神カレー」だ。近年はビーフのみの提供だったが、世紀の大一番にふさわしい伊勢海老シーフードカレーが復活した。
昼夕ともにカレー、そして伊勢海老2尾を平らげた永瀬王座。30歳でこの食べっぷりは見事と言うしかない。永瀬王座の体力と気力が1分将棋の僅差を制したと言えるだろう。
対局後「攻め駒が少なくなり、いい指し方ではなかった。違う手があったかな」と振り返った藤井七冠。次局は9月12日、神戸市の「ホテルオークラ神戸」。2週間で鋭気を養い、苦手とする後手で巻き返せるか。