「ほんまに『おいしい』って何やろ?」村田吉弘/1980円・集英社
世界中で日本食がブームだ。「和食」をユネスコの「無形文化遺産」に登録させた立役者が、京都の老舗料理屋「菊乃井」三代目主人・村田吉弘氏である。昨今のグルメブームにも警鐘を鳴らすなど、ほんまもんの〝おいしい〟を語り尽くす。
魚住 今日は「赤坂 菊乃井」のステキなお部屋でお話を伺うことができてとてもうれしいです。
村田 こちらこそお越しいただいてありがとうございます。
魚住 「菊乃井」三代目のご主人の村田さんは、23年の「G7広島サミット」の料理人に選ばれて、各国の要人の料理を担当されました。カナダのトルドー首相から「シェフを呼んでほしい」と言われて、直接感謝の言葉をいただいたそうですね。
村田 はい。出向いて行ったらトルドーさんに「皆さんが喜んでいるので挨拶しては?」と言われて、各国首脳のところを回って握手をしてもらいました。
魚住 私は広島県出身なので、名産の広島レモンを使ったお味噌汁を作られたことが、すごくうれしかったです。
村田 広島レモンを粉砕して、そこに豆、糖質、タンパク質、麴菌を加えると味噌ができます。この「広島レモン味噌」を使った冷たい味噌汁を出しました。
魚住 牡蠣を入れたお好み焼きも大好評だったそうですね。
村田 やはり広島といえばお好み焼きですからね。そしてソースといえばオタフクソースなんですけど、少しアレンジを加えた特製ソースをかけて出しました。
魚住 ここまで日本食が世界で認められるようになったのは、13年に「和食」がユネスコの「無形文化遺産」に登録されたことも大きいと思います。登録には村田さんもずいぶんご尽力されたそうですね。
村田 10年にフランス料理がユネスコの無形文化遺産に登録された際、若い時からよく知っている友人のアラン・デュカスから「フランス以外で食が無形文化遺産になれるのは日本しかない」と言われました。
魚住 フランス料理のカリスマシェフからそんなことを?
村田 デュカスはフランス料理が登録された時に、先頭に立ってやった。なので日本食は村田がやるべきだ、との助言がありました。ヨーロッパ中のメディアをデュカスの店に招いて、僕が料理を作る催事を3日間やってくれました。費用もデュカスが出してくれたんですよ。
魚住 それは強力なロビー活動でしたね。
村田 紹介してもらって、ユネスコの大使にも会いに行きました。大使からは、富士山と日本料理が登録できないなら、自分は更迭されてしまうだろうって言うので「そりゃそうやろ」と言いました(笑)。
ゲスト:村田吉弘(むらた・よしひろ)「菊乃井」三代目主人。1951年京都生まれ。立命館大学在学中にフランス料理研究のため渡仏。93年「菊乃井」三代目主人となる。現在、「菊乃井 本店」「露庵 菊乃井」「赤坂 菊乃井」を統括。12年「現代の名工」「京都府産業功労者」、17年「文化庁長官表彰」など様々な賞を受賞。18年「黄綬褒章」を受章。同年「文化功労者」に選出される。
聞き手:魚住りえ(うおずみ・りえ)大阪府生まれ、広島県育ち。慶應義塾大学文学部卒。1995年、日本テレビにアナウンサーとして入社。報道、バラエティー、情報番組などで幅広く活躍。04年に独立し、フリーアナウンサーとして芸能活動をスタート。30年にわたるアナウンスメント技術を生かした「魚住式スピーチメソッド」を確立し、現在はボイス・スピーチデザイナーとしても活躍中。